茜の面倒は自分で見ると言ったので、ご飯の準備はしないといけないからだ。
 龍崎家のご飯は高齢男性の板前が作っているようだ。広い台所で、忙しそうに動き回っていた。お手伝いしている使用人は数人居たが。

「あの……台所を使わせて頂いても大丈夫でしょうか?」

 緊張しながらも貸してもらえないかと頼む。邪魔にならないように、隅っこのスペースを分けて頂けると助かる。しかし板前は結羅の顔を見ると、眉をひそめてきた。

「はぁ? こっちは忙しいんだ。欲しいものがあるなら、こちらで作る」
「ですが、私と妹のご飯は、こちらで作ることになっていまして」
「だから、必要なら言えって。こちらで作るから。忙しい時に横で邪魔されたら困るんだよ!」

 さらに厳しい意見で返されてしまった。他の使用人達も頷いている。
 確かに本来ならプロに任せた方がいいだろう。だが茜は結羅が作ったご飯が大好物。
 特に今はオーラのせいで警戒心が強い茜は怖がって、この家の食事を食べない恐れがある。それに霊力補給には結羅が作る必要性があった。

「すみませんが……そういうわけには」
「おい、主の妻がそう言っているんだ。台所ぐらい貸してやれよ」

 結羅が言い終わる前に誰がそう言って庇ってくれた。声のする方を振り返ると、伊織の側近兼秘書の青村匠(あおむら たくみ)が近づいてきた。
 事件の時に居て、迎えの車も運転手をしてくれたが、彼もまた美形だった。
 168センチぐらいの小柄だが、二重の大きな目。小顔で中性的な顔立ち。伊織と同じ青みがかかった黒髪が特徴的。
 それに気になったのは彼から強い霊力が感じる。伊織と匹敵するほどの。

(龍崎家の血縁かしら? それにしても、これほどの霊力は当主しか現れないはず。だとしたら……)

 結羅がそんなことを考えていると、板前は渋い顔をする。納得がいかないのだろう。

「しかし……」