「あくまでも契約結婚だ。何の感情も持つわけがないだろう」

　茜の言葉に伊織はそう答えてきた。彼にとったら契約結婚だけだと。
　しかし茜は見逃さなかった。結羅のことを聞いた時に、微かに揺れたのだ。ピンク色のオーラが。

「……本当に？　お姉ちゃんは、ただの都合がいい相手ってこと？」
「ああ……」

　また動いた。今度は、さっきよりも大きく揺れる。

（これは、私の言葉に動揺したわね。なるほど……少なからず感情がないって言葉は本心ではないわね。それとも気づいているのかしら？　自分の感情に）

　だとしたら、余計に気になる。　
　これは……思っていたよりも面白い展開になるかもしれない。茜は密かに口元が上がる。
　そう考えている間に、龍崎家に着いてしまった。
　しかし自宅に着いたと思ったら、大きな門の前で降ろされてしまった。

「えっ？　これが……龍崎家？？」
「まぁ……凄い」

　茜と結羅は、屋敷を目の前で見て、驚きを隠せなかった。まるで老舗旅館だ。
　門が開くと、広々とした庭園があった。手入れされた樹木や花など。大きな池には鯉が泳いでいる。
　屋敷は和風様式の構造で造られていて高級感がある。落ち着いた雰囲気に思わず息を吞む。これが、これから住むことになるとは誰も思わないだろう。
　本当に上手くやっていけるのだろうか？