両親は驚いて動きが止まった。そのお陰で隙が出来た。
 結羅は、その隙を逃がさなかった。父親を突き飛ばすと、急いで茜の腕を掴む。

「茜、走って」
「えっ? お姉ちゃん!?」

 こんなことが出来るのは青龍の力を持つ彼しかいないだろう。
 せめて彼のもとまで逃げ切れば、どうにかなるかもしれない。そう思って玄関まで走った。

「おい、こら!? 茜を何処に連れて行く気だ?」

 父親は必死に止めようとしたが、何とか振り切った。玄関のところまで行くと、伊織が立っていた。傍には一緒に居た小柄の男性も。
 玄関のドアは壊されて、粉々になってしまっていた。

「た、助けて」

 必死に伊織のところまで走り切ると、彼の後ろに隠れる。震えている茜をギュッと抱き締めながら。
 狭い2階建ての家なので、すぐに追いつかれてしまう。
 両親は殺気を立てながら、こちらに近づいてくる。しかし伊織はギロッと睨みつけると止まった。

「な、何だ……お前らは?」
「……俺か? 白石結羅の夫だが」
「はぁ? 夫だと……?」

 夫だと言ってきたことに結羅も驚いたが、それを聞いた父親は笑った。

「ウチのバカ娘を貰ってくれるのは、ありがたいが。邪魔をしないでもらいたい。こちらは茜を取り戻せれば、それでいい」
「……無理な用件だな。彼女の条件は妹も含まれている。渡すことは出来ない」

 条件を出して断わってくれる伊織。だが父親は怒りを向けてくる。

「いい加減にしろ、貴様ら。さっさと茜を置いて、出ていけ!? 二度とウチの敷居を跨ぐな」