「私の条件は、3つです。1つ目は『契約結婚の条件には妹の茜を含めること』2つ目は『妹の世話は変わらず私が全部やること』
3つ目は『私はいいので妹だけでも守ってほしい』それだけです」

 図々しいと思われたかもしれない。それでも茜を守るためには妥協は出来ない。
 しかし伊織はその内容に驚いていた。もっと欲深いことを言ってくるのかと思っていたからだ。その条件は全て妹のことで、自分に関することは一切ない。
 自分に関することなのだから『もっと契約金が欲しい』とか『自分にも権利が欲しい』とかあってもおかしくはないのに。

(何を企んでいるんだ? 俺を油断させるためか?)

 人間不信の伊織は結羅の心情を理解が出来ず、疑ってしまう。
 それでも叶えられない条件ではない。期間の間だけ義理の妹を守ればいいのだからと考え直した。油断さえしなければいい。

(今は白虎の後継者との強い結びつきが手に入れば……それでいい)

 伊織はそう思いながら、チラッと結羅を見る。真っ直ぐと目線を逸らさずに、こちらを見ていた。澄んだ綺麗な目をしている。まるで汚れを知らないような。
 それに、これだけ強く美しい霊力は見たことがなかった。
 伊織は慌てて目線を逸らすと、上着のポケットから一枚の紙を取り出した。

「……分かった。その条件を呑もう。これに、今すぐサインしろ。ほとんど記入済みだから、必要なところを書けばいい。契約書は後日に渡す」

 差し出した紙は婚姻届。決まった際に、すぐに書かせるつもりで用意しておいた。
 途中で気持ちが変わったと言われたら困る。早めに手続きをして、その関係を頑なものにしたかった。けして裏切りがないように。

「……分かりました」

 結羅はそう言うと、婚姻届に書き始めた。そこには迷いがないように感じる。
 逆に虎太郎が心配して『本当にいいのか? 考え直せ』と、説得を始めるほどだ。

「これでいいですか?」