その時だった。バタバタと後ろの方から走ってくる気配がした。

「虎太郎(こたろう)。ちょっと、待って。今から呪詛を解くから」

 ハァッハァッと息を切らしながら走ってきたのは白虎の後継者の結羅。巫女装束である緋袴を着て、腰まである色素の薄い茶髪を後ろで一つに束ねている。

『コイツ。少し懲らしめやってからでもいいのではないか?』
「それはダメよ。呪詛をかけられて、操られているだけなのだから」

 一度は懲らしめた方がいいと言う白虎(虎太郎)だが、結羅はそれを拒否する。そして、一枚のお札を取り出した。
 結羅のお札は金色に輝き出す。それを犯人の男の胸元に貼り付けると、九字護身法を唱え始める。

「臨兵闘者皆陳裂在前。悪しき呪詛を封印せよ」

 そうしたら犯人の男は、そのまま白目を向いて倒れてしまい、気絶をしてしまった。この男は放火犯。最近あちらこちらの住宅やゴミ箱に火をつけ回っていた。そのいで住宅が火事になってしまい、周りは大変迷惑をしていた。
 しかし、ただの放火犯ではない。犯人には呪詛がかけられていた。
『呪詛』とは呪いの一種で人を操ることや殺すことが出来る。かけ方は、色々とあるが、一般的は怨霊に取り憑かせて、正常な判断を奪う。
 まだ、これは軽い種類だろう。霊力が少ない。
 本来なら神獣は霊力のある人間しか見えない。少しでも呪詛で霊力を持ってしまったのが、その証拠だ。
 そのため、すぐに呪詛が解けられたから良かったが。

「結羅ちゃ~ん」

 すると、叔母である琴子(ことこ)が慌てて追いかけてきた。叔母は父親の妹で、同じく白石神社の巫女を務めている。

「琴子(ことこ)叔母さん」
「ふぅ~間に合って良かった。どうやら上手く除霊ができたみたいね。助かったわ。私達では呪詛の除霊は出来ないから。怪我とかない?」