「ハハッ……これは丁度いい。青龍の心臓も手に入るかもしれないな? しかし、私には強力な人質が居ることを忘れるな」

そう言うと、パチンッと指を鳴らす。そうしたら茜はガタガタと手を震わせながら、ナイフを自分の首元に近づける。

「茜!?」

 結羅は大声で名前を呼ぶが、柳木はハハッと笑う。

「少しでも勝手な真似をすれば、この女の首を刺し殺す。それでもいいのか?」

 茜を人質にして言うことを聞かせるつもりのようだ。妹に危害を加えるとなると、結羅は動くことも出来ない。伊織と虎太郎もだ。
 青龍は匠として人型に変化すると、茜に向かって叫ぶ。

「何をやっているんだ!? 茜、目を覚ませ」

 しかし茜は、まだ呪詛のせいで正気には戻らない。ナイフを首近くに触れながらクスクスと笑う。

「嫌よ。私は柳木様しか指示に従わないわ」
「茜!?」

 だが、彼女の腕はガタガタと震えている。まだ完璧に操られていないということか?
 結羅はそれに気づくと伊織の腕から離れて、少しずつ近づいていく。

「結羅。何やっているんだ!? 危ないぞ?」

 伊織はそう言って止めるが、結羅はそれを無視して少しずつ近づいて行った。

「ほう……そちらから来るのか? いいだろう。茜……受け入れてやるといい」

 柳木が指示を出すと、茜は右手のナイフに首を近づけたままだが、左手を伸ばしてくる。

「お姉ちゃん。来て」

 抱き締めてほしいとねだる。しかし結羅は、ある賭けに出ることにする。

「茜、思い出して。あなたの夢は医者。そして、私の大切な妹よ」

 目尻に涙が溜めながらも、必死に訴えかける。