その目には正気はない。ニヤリと笑いながら、一点しか見ていない。

「早く終わらせて、柳木様に熱いキスをもらわなくちゃあ。私、彼の妻になるのが夢だから」
「な、何を言っているの? 茜……あなたの夢はお医者さんでしょ!?」

 記憶まで操作されてしまったのだろうか? 自分の夢なのに変わってしまっていた。

「何を言っているの? 私は柳木様の花嫁になるの。医者とか、そんなかったるいことを夢にするわけないじゃん」

 長年の夢すら否定をしてくる。これでは、まったくの別人だ。

「……茜じゃない。本物の茜を返して!」
「はっ? 何を言っているの? 私は私じゃない」
「違うわ! 茜はずっと医者になることを夢見てきた。純粋で真っ直ぐな子よ。そんな子を操るなんて許せない」

 結羅は、お札を出して構える。しかし茜はまったく狼狽えない。それどころか、
「呪詛を解くつもり? そうなったら、この子が、どうなるか分からないわよ?」
 クスクスと笑っている茜の心臓部分には既に呪詛が繋がり始めていた。

 少しでも呪詛を解いたら茜の命まで奪われてしまうことに。

「そ、そんな……!?」

 動揺する結羅を無視して、茜は折り畳み式のナイフを取り出した。そして結羅の元に駆け寄っていく。キラリとナイフの刃を向けながら。

「傷つけたくなかったら、大人しく死ね!」

 茜は結羅に目がけて、ナイフを降り下ろそうとしてくる。相手が妹で、呪詛のせいで身動きが取れない。
 身体が硬直している瞬間だった。虎太郎が大きくなって、ギリギリのところで茜に体当たりして止めてくれた。

「キャアッ!?」

 突き飛ばされたせいで派手に倒れ込む茜に、結羅は焦る。