「ううっ~」

 声を出して泣きすと、伊織は突き放したりせずに背中を優しく叩いてくれた。 前の彼だったら、ありえないことだ。
 しかし、その後もずっと抱き締めて、片時も離れなかった。
 伊織は、泣きじゃくる結羅を泣き止ますためにキスをする。頬や目、そして口元に。
 結羅もそれを受け入れた。彼の優しさに、ただ忘れて甘えたかったからかもしれない。
 それでも、伊織に対する想いは強くなっていく。伊織もまた、彼女の危うさと純粋さに心を奪われていく。
 お互いは求めるように、ひたすら愛を交わすのだった。

 その頃。虎太郎は、屋根の上に居た。月の光を浴びた姿は、白い毛皮は白銀の髪に。
 鋭い爪は、変わらず。トラぐらいある大きな身体は鍛えあがっているが、スラッとした人間の姿に。
 金色の鋭い目つきだが、全体に若く整った顔立ちをしている美しい青年になっていた。
 白虎もまた人型の姿に変化が出来るのだった。
 外で結羅の様子を伺いながら、やれやれとため息を吐いていた。

「まったく……世話の焼ける主達だ」

 そう言いながら、チラッと夜空を見る。風の力と人間の何倍も効く嗅覚を使って、霊力の方向を探す。何処かに茜が居るはずだ。鵺と玄武の当主も。
 地面の下に居るのだろうか? それとも結界でも張っているのかもしれない。

『あ奴らが、茜の眠っている能力に気づいたか。特殊な体質の上、いつ目覚めてもおかしくない』

 虎太郎が気にしているのは、茜の能力だった。彼女は目に霊力を溜めやすい。
 それには、ある秘密があった。