「……えっ?」

 まさか伊織の口から、そのような言葉が出るとは思ってもみなかった。
 彼は、いつも人に対して否定的だ。だから慰めの言葉をくれるとは思わなかったため、驚いてしまった。

「……本当ですか?」

 結羅は聞き返すと、伊織は池のある方を見つめる。

「ああ、俺は義兄と仲が悪かったから、兄弟としての正しい接し方が分からない。だが、君らを見ていると、時々羨ましくなる」

 伊織は腹違いの義兄とは確執があって、追い出す形になってしまった。
 後継者争いとして、また兄弟としても溝が深まるばかり。伊織の心に深く傷をつけただろう。

「……伊織さん」
「君達、姉妹の絆は誰よりも深い。心配しなくても、俺達が必ず見つけてやる。そうすれば、取り戻せるはずだ」
「……はい」

 伊織の言葉も思わず目尻に涙が溢れてくる。
 泣かないように気をつけていても、茜のことを考えると自然と涙が溢れてきてしまう。すると、伊織がギュッと抱き締めてくれた。

「あ、あの~」
「泣くな。君には涙は似合わない」

 野々華と同じ台詞を言って励ましてくれた。嬉しさもあるが、何だか胸がギュッと締め付けられて苦しくなってくる。
 しかし伊織は言葉を続ける。

「……でも、今は別だ。泣いておけ。俺が全部受け止めてやるから」

 その言葉にポロポロと余計に目尻に涙が溜まる。ずっと溜め込んでいた感情がぶわっと溢れ出してきた。