静かな部屋が辛すぎて、外に出てみることにする。
 庭を見ながら、ぼんやりと眺めていると、誰かが近づいてくる。伊織だった。

「まだ起きていたのか? 朝は早い、部屋に戻って寝ろ」

 気遣って、そう言ってくれたのだろう。しかし結羅は静かに首を横に振る。

「……眠れなくて」

 こんな不安で寂しい夜を過ごしたのは何年ぶりだろうか。両親に見放されて寂しいことはあったが、妹の存在は大きかった。
 野々華に勇気をもらい、守る存在がある。それがあったから、何とか自分を保つことが出来た。
 それを無くしたら、こんなにも無力になるとは思ってもみなかった。ぼっかりと空いてしまった穴をどうしたら埋められるのだろうか。涙ぐむ結羅。
 すると、伊織は黙って結羅の背中に羽織をかけてくれた。

「いくら夏でも……そのままで居ると風邪をひくぞ?」
「あ、ありがとう……ございます」

 結羅がお礼を言うと、伊織は隣りに並んだ。池の方から蛙の鳴き声が聞こえてくる。
 ジメッとした暑さが、もう夏が始まったのだと実感する。
 そういえば、もう夏休みだ。茜の学校も明後日で終業式になるはずだった。

(とりあえず体調不良で休みたいと連絡をしておかないと)

 そう思いながら、それしか出来ない自分が情けなくなってくる。

「私……ダメな姉ですよね? 後継者としても全然ダメだし。結局、守るはずの妹を人質に取られてしまうなんて。茜の身に何かあったらと考えると……どうしたらいいか分からなくて」

 本当か彼に愚痴りたいわけではないのだが、言葉が出てきてしまう。誰かに話を聞いてほしいのかもしれない。
 そんなことを言われても困らせるだけなのに。

「……そんなことはないと思うぞ。お前は……良くやっている」