「茜!?」
「た、助けて……お姉ちゃん」

 もう少し。あと数センチで手が届きそうになる。
 しかし思った以上の速さで、黒い液体は茜の身体を地面に吸い寄せられ、あっという間に、手首まで飲み込んでいく。

「いやああああ~茜っ!?」

 手を掴み、引っ張ろうとしたが、力もなく茜だけが飲み込まれて消えてしまった。
 取り残された結羅は、悲鳴を上げながら地面を叩く。

「茜!? 茜を返して」

 結羅は、ひたすら泣き叫ぶ。慌てて伊織と匠は車から降りてきて、彼女を止める。

「離して。茜が!? 茜がこの中に。早く助けないと」
「落ち着け、結羅」
「いやああああ~離して」

 ここまで気が動転した彼女を見たことがない。大切な妹を奪われた結羅は正気ではいられなかった。
 伊織は泣き叫んで暴れる彼女をギュッと抱き締める。そして虎太郎に「今の状況を説明しろ」と言った。

『これは玄武の能力の1つ。土を操ることが出来るから、自由に地面を移動することが可能だ』

 特殊能力の1つ。自然を操ることが出来る四神は、それぞれの特性を活かして、相手に攻撃が出来る。
 玄武は土を移動して、相手の動きを封じることが可能だった。

「どうにかして、取り戻せないのか?」
『地面に居る以上は我々には不可能だ。せめて外に出てくれたら、取り返すことは出来るのだが』
「……くそっ」