ドアの外から野々華が訴えかけてくる。結羅の心は激しく動揺する。
 過去の出来事が頭の中でフラッシュバックしてくる。

「……ねぇ、思い出してよ? あの時だって、私を助けてくれたじゃない?」
「……それは」
「もう……私は親友とは思ってくれないの? ねぇ……怖いよ。助けて……結羅」
「……野々華ちゃん」

 結羅の心臓はバクバクと大きな音を立てて崩れ落ちるのを感じた。罪悪感が自分に襲ってくる。顔色が見る見るうちに青白くなっていく。
 全身がガタガタと震え上がる。

「結羅……早く開けて。私……殺され」
「結羅!」

 野々華の言葉を被せるように伊織は大きな声で結羅の名を呼んだ。
 ハッと我に返る結羅。
 すると伊織は自分の手を結羅の耳で押さえた。

「余計なことは考えるな。君と彼女に何があったか知らないが……あれは偽者だ。君は俺の言葉だけ聞いていればいい」
「……ですが」
「君はまだ俺の妻だ。必ず守ってやる」
「……伊織……さん」

 さっきまで恐怖で震えていた身体は、伊織の言葉のせいか、ドキドキと胸が高鳴り出す。真剣に結羅の目を見て言ってくれたからだ。。
 しかし喜んでばかりはいられない。

「……結羅? ねぇ、開けてよ」

 野々華は低い声で、まだ開けてと言ってくる。

「……ごめん。野々華ちゃん……開けられない」