「その結婚って、本当に大丈夫なの?」

 結羅したら、それは心配するものばかりだったから、思わずそう聞いてしまった。

「もう~どうしたのよ? 大丈夫だって」

 しかし野々華は、ハハッと大笑い。まるで気に留めていないかのように。
 その後も彼女は何事もないように振る舞い帰ってしまった。「絶対に来てね」とだけ念を押して。
 こっそりと様子を見ていた虎太郎は、
『あれは、絶対に罠だ!』と、真っ先に疑っていた。

 結羅もその可能性が高いと分かっていた。いくらなんでも都合が良すぎる。
 今まで音信不通だったのに、急に現れて、結婚式に招待されるなんておかしい。事件の当事者である黒石神社の当主が絡んでいるのなら、なおさらだ。
 それでも、結羅には幼い頃の彼女の顔が頭から離れなかった。

 その後も、自宅に茜にそのことを詳しく話したら猛反対される。

「そんなの絶対におかしいよ。絶対に罠に決まっているわ」

 茜も虎太郎と同じ意見を言っていた。

(それもそうよね。自分が逆の立場だったら、反対しているわ)

 結羅には、それでも引っかかることがあった。
 野々華を利用しようとしたってことは、自分のトラウマの原因をよく熟知しているってことだ。彼女を傷ものにすれば、結羅の心が大きく絶望するから。
 もともとの原因は変質者。彼女から引っ張り出すってことは、彼らも痺れを切らしているのかもしれない。

(野々華を利用するなんて……許せない)

 結羅はギュッと拳を握り締める。これは自分だけで、どうにかするしかない。
 野々華のためにも。いや……自分自身に決着をつけるためにも。
 結羅の頑な決心に、茜は黙って見ていた。そして、ある人物も。