「……これは」

 思わず左手を隠した。これは伊織がくれたものだが……意味合いが違う。
 そうしたら、野々華はフフッと笑ってくる。

「何よ~隠すことないじゃない? もう……相変わらず内気なんだから」

 そう言い、昔のような笑顔を見せてきた。
 野々華は、いつもそうだった。からかい半分で、結羅に近づいてくる。
 幼い結羅は、急に冷たくなった両親をなかなか受け入れられず、泣いてばかり。性格も内気になりかけた。
 そんな彼女を明るく笑いかけてくれたのは野々華だった。いつも一緒に居てくれて、励ましてくれる。結羅にとってかけ甲斐のない存在。
 結羅の心は大きく揺れる。罪悪感と昔に戻った懐かしさに。

「そうだ。なんなら旦那さんと一緒に来てよ? 大歓迎するから。私の旦那さんは、ここと同じで、神社の当主なんだ。黒石神社って、知っている?」
「……えっ?」

 その神社の名前を聞いて、驚きのあまり目を大きく見開いた。やはり黒石神社と関係していた。
 しかも旦那になる人って、どういうことだろうか?

「あなたの、旦那さんって……黒石神社の当主なの?」

 もう一度聞き直した。

「えぇ、そうだけど? 名前は柳木伊吹(やぎ いぶき)様っていうのだけど。50歳で、かなり年上だけど紳士的で優しいの」
「ご、50……!?」
 もはや、どこにツッコミを入れていいのか分からない結羅。
 年がかなり離れているのにも驚きだが、一体黒石神社の当主は何を考えているのだろうか? あまりにも危険なような気がする。