このまま攻撃されたら、被害が大きくなってしまう、使用人達は悲鳴を上げながら逃げ回る。
 しかし伊織はハハッと笑う。何がそんなに可笑しいのだろうか?
 伊織はひと通り笑うと、ギロッと梨々子を睨みつけて合図を送った。

「……もういい。匠、やれ」と……。
 すると匠はチラッと茜の方を見る。

「もう一度言う。怖いのを見たくなかったら部屋に入っておけ。それか目をつぶっていろ」
「えっ?」
「早くしろ!」

 匠がそういうので、茜は文句を言いながらも目をつぶった。伊織も梨々子が見えないように背中で隠した。
 匠から青色の強烈な霊力があふれ出してくる。大きな力は渦巻きとなり、走り出した匠の身体は龍の姿に変わっていく。
 長い胴体は、くねらせたまま梨々子に向かって行く。そして彼女、目がけて大きな口を開けた。
 鵺は危険を感じて姿を消すが、梨々子をそのまま一飲みにしてしまう。
 結羅は見てしまった。身体の中に入ってしまった梨々子。しばらくしたら吐き出されが、ぐったりしたまま。身体中が唾液まみれになっていた。

「り、梨々子さん!?」

 結羅は慌てて彼女のもとに駆け寄ろうとしたが、伊織が腕を掴まえて止める。

「無駄だ。彼女は既に虫の息だ」
「そ、そんな……」

 青白くなった表情の梨々子。啞然とする結羅と違って、伊織の表情は冷たい。

「匠が彼女の霊力を全て奪った。呪詛とともに生命力も消滅する。分かっただろう? それが龍崎家と白石家の違いだ。邪魔なら殺す。例えどんな相手でも」