完全に正気を失ってしまっているようだ。目は殺気でギラギラしている。
 呪詛の力だけではないだろう。彼女の肩に乗っている黒色の丸い物体に強い霊力を感じる。霊とは違う、得体の知れない生き物だ。

(あれは……あやかし?)

 そういえば虎太郎に前に聞いたことがあった。四神の他に数々の神が居る。それ以外にも、あやかしが存在していると。
 昔は恐れられたあやかしも、時代とともに変化していく。人の姿になって生きていくものや、人知れず生活していると。
 しかし、中には人に悪さをするものが居ると聞いたことがあったが。

「……驚いたな。龍崎家の敷地に、あやかしが混ざり込むとは」
「伊織さん……」

 伊織が腕を押さえながら起き上がった。結羅は心配そうに彼を支える。
 それが気に食わないのか梨々子は、また手をかざしてくる。
 伊織は結羅を後ろに下がらせて、庇うように前に立った。

「……これは、あやかしなのせいでしょうか?」
「そうだろうな。龍崎家の霊力は男性しか引き継がれない。しかし梨々子は少なくても龍崎家の血筋だ。あれは……無理やり霊力を絞り出しているのだろうな。だが、あんな無茶な使い方をすれば命を縮めるだけだ」

 伊織の冷静な分析に結羅は納得する。
 霊力を無理やり作り出すことは簡単なものではないが、青龍の血筋があるのなら、出来なくもない。その分の精神力と身体の負担は大きいが。
 梨々子は、また水を渦巻きにして攻撃してきた。危ない!?
 しかし、そうなる前に強い風が水の渦巻きとぶつかり合う。バチバチとお互いに衝突し合うと消えてしまった。

『まったく、おちおちと寝ていられないな?』

 そう言って現れたのは虎太郎だった。どうやら虎太郎が風を起こして、助けてくれたみたいだ。