出来ないと思って、ワザと言っているのだろうか?

「どうした? 出来ないのか?」

 挑発的に言っているが、目は笑っていない。ひんやりと冷たい表情は、期待すらされていないのが分かる。
 結羅は異性とキスしたことはなく、初めてだった。
 しかし、このまま引き下がったら関係制に変化は起きない。
 勇気を出して、伊織の近くまで寄っていく。心臓が破れそうになるぐらいドキドキしながらも、伊織の唇に触れようとした。
 近づくと、彼の長くバサバサのまつ毛がはっきりと見えてくる、
 触れたか触れていないか分からないぐらいの軽いキスをした。
 だが、伊織が満足しなかったのか、離れた唇をまた押し込んできた。彼の手は結羅の頭と腰を掴み、固定される。

「……んっ」

 結羅は苦しくて、もがくが体はビクともしなかった。苦しい。
 情熱なキス。しばらく唇を離されると、唾液が繋がっている。結羅はハアッハアッと息を整えていると、伊織はギュッと抱き締めてくる。
しかしボソッと「これで、梨々子も自分の立場が分かっただろう」と、呟いた。

「えっ?」

 しかし、その時だった。人の気配がして慌てて結羅は振り返る。
 そこに居たのは梨々子だった。
 梨々子は目を見開く、真っ青な顔でこちらを見ていた。どうやら伊織は彼女が見ていると分かったから、強引にキスをしたのだろう。
 結羅は、どうしようとオロオロする。しかし伊織は彼女に追い打ちをかける。

「これで分かっただろう? 俺の妻は結羅だけだ。これ以上、俺に付きまとうな」

 はっきりとそう言い切った。しかし、それが梨々子の逆鱗に触れたようだ。
 梨々子は下を向きながら、ブツブツと呟き出す。