まさかの龍崎家の事情を聞いて、結羅は衝撃を受ける。まるで自分の家と似ているからだ。
 いくら父親が義兄に跡を継がせたいからって、もう1人の息子を手にかけようだなんて、恐ろしいことだ。しかし伊織はハハッと笑った。

「だから、俺は匠に父親の霊力を全て奪うように命令した。霊力を全て奪われた父親は放心状態となり、今だと寝たきりだ。いずれ衰弱して死ぬだろう。匠……青龍はお前のところと違って、強い霊力だけを追い求める。もっと強力な霊力が生まれたら、そこに行く。だからアイツらは、俺との子を欲しがるのだろうな」

 何だから苦しそうな声で話す伊織に結羅はますます胸が痛む。これでは、伊織自身を見られていないと言っているのと同じ。
 思わず黙ってしまう結羅に、伊織はフッと笑う。

「同情でもしたか? 言っておくが、今回のことも俺は何とも思ってもいない。どうせ自分以外に信じられるものはないのだからな」

 全て諦めたかのような顔をしていた。そんなはずはない。
 あれだけの噓を言われて、平気なわけがない。だからこそ、あんなに傷つき、荒れたのに。

「……俺に価値なんてそんなものだ。君も分かったら」
「そんなことはありません」

 彼の言葉を否定する結羅。そんな悲しいことは言わないでほしい。

「青龍……匠さんだって意志がある。四神は力だけを求めたりしない。それに、当主だからではありません。伊織さんには伊織さんしかない魅力があるはずです」
「……そんなものはない」
「あります。絶対に!」

 結羅はそう言い切った。伊織は自分を否定するが、気づいていないのだ。
 当主に選ばれると色々と重圧が圧しかかる。それを一人でやっていくのは本当に大変なことだ。それに匠は伊織のことをずっと気にかけている。