玄関で怒鳴り散らしている。結羅は慌てて行くと、その前に梨々子が泣きながら、父親に抱きついていた。

「お父様、怖かったです。こんな酷いことをされるとは思いませんでしたわ」
「ああ、梨々子。可哀想に。ウチの子は生娘だと言うのに……こんな目にあわせるとは許せん」

　これでは本当に何かあったかのようにされてしまう。悲惨な親子を演じている。
　それに困ったことに騒ぎを聞いても伊織は姿を表さない。夜のこともあって、離れで籠りきりだ。

「あの……それは」
「誰だ、君は？」
「私は伊織の妻になった白石結羅です」
「ああ、君が……まったく。ウチの娘に手を出しておいて結婚するとは、どういうことだ？」

　納得していないようで結羅をジロジロと睨みつけながら見てくる。

「それですが、今回のことは」
「お父様。彼女はあくまでも契約結婚の相手ですわ。揉め事の解決するためだけに利用されただけの、仮の花嫁。いずれ離婚するみたいですわ」

　被せるように梨々子は、結羅は契約結婚だとバラしてしまった。と、言っても、もう知っていることだろう。
　それを合図の梨々子の父親はさらに顔を真っ赤にさせて怒ってくる。

「それだったら、さっさと離婚しろ。こんな結婚は認めない。そして伊織は責任を持って梨々子と再婚させる」

　結羅の目の前でそう言ってきた。そこまでして自分の娘を龍崎家当主の妻にさせたいのだろう。
　だが、そこには伊織の意思は無視している。このまま押し切られるわけにはいかない。　まだ伊織が姿を見せない限りは。結羅は咄嗟に声を上げる。