「待って下さい。まだそうだと決めつけるのは」

 結羅がそう言いかけるが、言い終わる前に伊織の堪忍袋の緒が切れてしまう。

「お前ら、いい加減にしろ!!」

 怒鳴り声に周りは一斉に静まり返った。ハァッハァッと息を荒くしながら、ギロッと睨みつけてくる。

「お前ら、全員出ていけ」

 その怒りは凄まじい真っ青な霊力となってあふれ返っていた。伊織の目は青色に変わっていた。
 部屋の中なのに、ガタガタと地震のように揺れ始める。それには使用人達は震え上がる。
 バンッと引き戸が開くと、匠が同じように目を青色に光らせて、睨みつけてくる。

「貴様ら、今すぐ部屋から出ていけ。出て行かない者は主に代わって、俺が始末する」

 低い声で、そう言うと使用人達は血相を変えて出ていく。もちろん梨々子も。
 結羅は伊織のことが心配だったが、これ以上居ては何をするか分らない。とりあえず、その場を離れることにした。
 廊下を渡り終わるが、離れはガッシャンと何か壊される音がした。伊織が荒れているのだろう。
 周りはざわざわと騒いでいる。梨々子はずっと泣きっぱなしだ。このままにしておくわけにはいかない。

「とりあえず梨々子さんを部屋に連れて行ってあげて下さい。あと、今回のことは、あとで伊織さんに事情を聞くので、それまで内密に」
「……ですが」
「これは当主の妻としての命令です。ことを大きくしないで。いいですね?」

 結羅は咄嗟に女主人として使用人達を諌める。真っ直ぐ前を見て、そう言うと使用人達は何か言いたそうだったが、グッと黙る。
 返事をすると、それぞれの持ち場に持って行く。