私の魔法式

 四月十二日。
 
 さて、今日も授業頑張るぞ。
 朝早く学校に着き、誰もいない食堂で無料で提供される水を水筒に入れ、生徒手帳を開いた。
 生徒手帳は万能で、今日の時間割りを確認することもできる。

 一限、魔法史学(原始代)
 二限、魔法生物学A
 三限、美術史A
 四限、ダンジョン基礎学
 五限、魔法剣術ⅠA
 六限、口承魔法史A
 七限、魔法医療学ⅠA

「ちょっと入れすぎたかな」

 今日の必修科目は魔法剣術ⅠAのみ。
 それ以外は全て、自分で選んだ選択科目。

 今日の時間割りをしっかりとこなせるか恐れを抱きつつも、これだけ頑張らなければ私はこの高校で生き残れないんだと気合いを入れる。
 そもそも私は補欠合格で、偶然入学できた。私が一番下であることは分かりきってる。
 この学園で生き残るために、全てを自分の成長に捧げなければ。

 でなきゃ……、約束を果たせないもんね。

 両手で頬を叩き、水をがぶ飲みする。

「落ち込んでたってしょうがない。とにかく今日も頑張るよ。私」

 気合いを入れ直して一限『魔法史学(原始代)』を受講した。やはり筆記に関しては得意分野。
 まだ二回目の授業で、やっているのは基礎的なことばかり。

「あ、これ、中学で習ったやつだ」

 なんて言葉を脳内で何度も浮かび上がらせながら、すらすらとノートの余白を埋めていく。

「魔法の起源は約900年前、マギア原子の発見により、我々人類は魔法という技術の根源を手に入れた。その後、様々な一族によって魔法が生み出され、発展していった」

 全て知っている内容であったため、魔法端末に目を向ける。魔法端末は全教室の全席に設置されたタブレット型機器であり、魔力認証によって自分のアカウントへ簡単にアクセスできる。
 自分のアカウントへアクセスすることで、教科書や授業資料、学園が有する様々な文献などが見れる。講義へ手ぶらで出席しても、問題なく受けられる。

 私は教科書の先のページまで読み進める。
 
 さすが高校……。
 後半へいくにつれて難しい内容が増えてくる。
 歴史は相変わらず知らない単語が多すぎる。

 一限が終わり、二限の授業が行われる第3飼育室へ向かう。まず私の視線を奪ったのは、白い翼を生やした白狼だった。

「ひょえ……」

 白狼はよだれを垂らしながら私を見つめている。
 完全に私喰われるじゃん。

 とは思ったものの、首輪がつけられているため、そばに立つ先生に調教されているのだろう。

「さあ、今日の講義では実際に魔法生物と触れ合ってもらう。先日も言った通り、魔法生物はモンスターじゃない。魔法によって進化したただの動物。だから脅えることなく、優しく接すれば仲良くなれる」

 そう言われても、なぜかこの狼、私を見る時だけよだれを垂らしてるんですけど。
 これ、完全に狙われちゃってるよね……。

 恐る恐る頭を撫でると、あれ、案外大人しいというか、普通にかわいい。
 その後も私は狼のもふもふを味わい続けた。

「最高の授業じゃん」

 至福の二限が終わり、昼食の時間。
 この学園には九つの校舎があり、全校舎に食堂がある。その中でも私が行きたかった場所は──

「やっぱここだよね。スイーツ食堂」

 クレープ、ケーキ、シュークリームなど、あらゆるスイーツがここで味わえる。
 とはいえ、料金格差があり……

「あなたはランキング最下位よね。他の魔法科生徒は無料だけど、あなたは有料よ」

「はい」

 問題ない。
 この程度のこと、問題ない。

 私は笑ってお金を支払う。
 嫌なことなんてスイーツを押し込んで忘れてしまおう。

 その後も三限、四限、五限と講義を受け、一度休憩を挟む。

「くぅ。やっぱ疲れるな。とはいえ、もっと頑張らないと私は生き残れないんだ。気を引き締めろ。私」

 水をグビッと一杯飲み干して、六限へ向かう。六限となると生徒数も減少し、七限に至っては私ともう一人しか受けていない、という状況だった。

 私は横目で彼女を見る。

 桃色の髪を肩まで垂らした、うつむきがちな女の子。
 話しかけようかな。
 中学時代の私なら、迷わず声をかけただろう。でも今の私は忌避されるべきランキング最下位。肩書きが私を縛りつける。

 本当は話しかけたかった。
 けれど、今の私には叶わない。
 間もなく終わる授業を名残惜しいと、初めて思った。

 恋じゃない。
 このモヤモヤは、嫌いだ。

 友達のいない高校生活、それは思っていた以上に──



 ──涙が出ちゃうよ。