翌朝、桜月庵の厨房には早くから灯りがともっていた。美咲は夜遅くまで試作を繰り返した末に生まれたひとつの和菓子を、そっと盆に並べていた。
桜の花びらを思わせる柔らかな紅と白の彩り。餡には、ほんのりと練乳の甘みを含ませている。
「若女将……少し、見てもらえますか」
声をかけると、梢が首をかしげながら近づいてきた。
「まぁ、美しいわね……。あなたがひと晩で?」
「はい。まだ試作段階ですが……」
梢は一口含み、目を閉じてじっくりと味わった。
「……優しい甘さね。春の光を思わせるわ。けれど、まだ少し輪郭がぼやけているかもしれない」
率直な感想に、美咲は深くうなずいた。
「やっぱり……私もそう感じていました」
そこへ、大女将の椿が静かに現れた。
「なにやら、面白そうな香りがしているね」
「大女将……!」
椿はひとつを手に取り、目を細めながら口に運んだ。
しばしの沈黙のあと、表情がやわらぐ。
「……春香の面影を感じる。けれど、これは美咲、お前自身の味だね」
その言葉に、美咲の胸が震えた。
「まだ未完成ですが……そう言っていただけて嬉しいです」
梢も頷く。
「少しずつ磨けば、必ずお店の看板になるわ」
その後ろで、悠人が腕を組んで見ていた。彼は言葉少なに美咲を見つめていたが、皆が去ったあとでそっと耳打ちした。
「やっぱり美咲らしいよ。昨日のまま、肩の力を抜いて作ったんだな」
「……見抜かれてるね」
「ずっと見てるからな」
軽く笑い合う二人。けれど美咲の胸の奥では、昨夜から募る感情がさらに強くなっていた。
──この人に、もっと自分を見てほしい。支え合っていきたい。
そんな想いが、桜の花びらのように心の中でひらひらと舞い始めていた。
桜の花びらを思わせる柔らかな紅と白の彩り。餡には、ほんのりと練乳の甘みを含ませている。
「若女将……少し、見てもらえますか」
声をかけると、梢が首をかしげながら近づいてきた。
「まぁ、美しいわね……。あなたがひと晩で?」
「はい。まだ試作段階ですが……」
梢は一口含み、目を閉じてじっくりと味わった。
「……優しい甘さね。春の光を思わせるわ。けれど、まだ少し輪郭がぼやけているかもしれない」
率直な感想に、美咲は深くうなずいた。
「やっぱり……私もそう感じていました」
そこへ、大女将の椿が静かに現れた。
「なにやら、面白そうな香りがしているね」
「大女将……!」
椿はひとつを手に取り、目を細めながら口に運んだ。
しばしの沈黙のあと、表情がやわらぐ。
「……春香の面影を感じる。けれど、これは美咲、お前自身の味だね」
その言葉に、美咲の胸が震えた。
「まだ未完成ですが……そう言っていただけて嬉しいです」
梢も頷く。
「少しずつ磨けば、必ずお店の看板になるわ」
その後ろで、悠人が腕を組んで見ていた。彼は言葉少なに美咲を見つめていたが、皆が去ったあとでそっと耳打ちした。
「やっぱり美咲らしいよ。昨日のまま、肩の力を抜いて作ったんだな」
「……見抜かれてるね」
「ずっと見てるからな」
軽く笑い合う二人。けれど美咲の胸の奥では、昨夜から募る感情がさらに強くなっていた。
──この人に、もっと自分を見てほしい。支え合っていきたい。
そんな想いが、桜の花びらのように心の中でひらひらと舞い始めていた。



