「……ですが、それは……」

景文も目を伏せた。

当然だ。皇帝の寵妃を“下賜”するというのは、前代未聞のこと。

下手をすれば、皇帝の怒りを買い、両家ともに破滅しかねない。

けれど――

「このまま、翠蘭殿を隠し通して何になります?」

王景殿は、静かに、けれど強い意志を込めて言葉を続けた。

「夜ごと忍び込む逢瀬を重ね、密やかに情を交わす日々……それで本当に満足なのですか?」

「……っ」

「堂々と妻だと、言いたくはありませんか?公の場でも、堂々と隣に立ち、手を取り合い、生きていける未来を……望まないのですか?」

景文の肩がわずかに震えた。

「……望んでいます。」

低く、搾り出すような声。

「望んでいます……心の底から、彼女を……翠蘭を、俺の正妻として迎えたいと思っている。」

「ならば、腹を括るのです。」

王景殿は、立ち上がり、厳しくも凛とした声で言った。