ぽつんと残された寝所に、私はひとり横たわった。

部屋の天井を見つめる。

目を閉じても、心臓の音が大きく響いていた。

「……やってしまった。」

私は、小さく声に出して言った。

逃げてきてしまったのだ。

宮殿を、皇帝を、義務を、妃という立場を――

全部投げ出して、この場所に来てしまった。

けれど同時に、胸のどこかが安堵しているのも確かだった。

茉莉花の香りはもう、肌から薄れていた。

そして初めて、私は“女”ではなく、“ただの私”として眠りに落ちていった。

翌朝。

私は、目を開けてすぐに――自分のしたことを反省した。

何も、逃げることはなかったのではないか。

嫌だったなら、きちんと「嫌です」と言えばよかっただけ。

寵愛を望まないのなら、そう言えばよかった。

でも私は……何も言えずに、ただ逃げた。

「……宮殿、騒ぎになってるかしら」