お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

それは、きっと喜びなんかじゃない。

ようやく訪れた“寵愛”の機会。

でも、それは愛される妃としての証ではなく――

ただ、返されぬための一夜。

そんなもの、私が本当に望んでいた関係ではなかった。

その夜。

私は、皇帝陛下の夜伽を務めるために、湯殿へと向かった。

湯気の立ちこめる室内に、静かな湯音だけが響く。

「皇帝陛下は、**茉莉花(まつりか)**の香りをお好みですので。」

そう言った侍女が、白い布に包まれた花びらを湯の中へそっと浮かべた。

瞬く間に、ふわりと甘く、清らかな香りが広がる。

その香りが、湯気とともに私の肌に染み込んでいく。

「……」

私の指先は震えていなかった。

けれど、心はまるで深い水底に沈んでいくように、静かに落ちていった。

「お綺麗ですよ、お妃様。」

侍女の言葉に、私はただ小さく笑ってみせた。