お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

「――そうか。そなたが、翠蘭か。」

皇帝陛下は、目を細めるように私を見つめた。

その視線に射すくめられながらも、私は必死に背筋を伸ばした。

「はい。翠蘭でございます。」

「一緒に歩こう。」

そう言って陛下は、私の横に並ぶように歩き出した。

石畳を踏みしめる音が、風にまぎれて響く。

「出身はどちらだ?」

「南部でございます。小さな村で育ちました。」

「……そうか。」

陛下は静かに頷いた。

その横顔は、あまりに整いすぎていて、まるで仏のようだった。

沈黙が数歩続いたあと、ふいに皇帝が言った。

「翠蘭。そなたに、伝えておきたいことがある。」

「……何でしょう。」

胸が高鳴った。

このまま、寵愛を告げられるのではと――

そう、思ったその瞬間。

「そなたのことを、一度も夜伽に呼んだことはなかったな。」

「……はい。」