幼馴染、という存在はやはり恋愛関係になりやすいらしい。
それを体現するのが葉野家の長男、蓮。
蓮は、桐原菖蒲という凛とした女の子と現在婚約している。
その名に恥じることのないほど心が優しい俺の一個下の幼馴染。菖蒲は上品すぎるわけでもなく、おてんばすぎるわけでもない。丁度よくバランスが保たれている。そんな、将来の義姉にあたるに相応しい人。菖蒲の旦那になる蓮の将来は安泰だとずっと思っていた。
いつもと同じように金曜夜9時通知が届く。『今日空いてる? 家行っても良い?』と。
つくづく、菖蒲は不用心だと思う。婚約者がいながら、他の男の家に来るなんて。でもそれは、菖蒲が節操なしだからではなくて俺が信頼されている証拠なのだと知っている。
蓮が勤める会社はどうやら高収入らしい。両親共々称賛するほどの。東京、大阪、広島、博多など支社が多くあり、転勤も割と多い企業。だから蓮と菖蒲はお互いが一緒にいられる時間が少ない。一年の中で、十回会えれば運がいいくらいのレベルで。
それで蓮からは、もし困ってたり何かあれば菖蒲のことを支えてやってくれと頼まれている。
蓮といい、菖蒲といい、俺を信頼しすぎだろ。危機感のない2人め。
でもまた、断ることもできずいつもと同じように『良いよ』と打ち込んで菖蒲とのトーク画面に送信してしまう。すぐに既読がついて着信がくる。
『もしもーし、かえ? 今日もつ鍋にしよ!』
甘くて子供っぽい声が電話越しに聞こえる。楓という名前を、かえと呼ぶのは菖蒲1人だけ。その呼ばれ方を案外気に入ってたりする。
「言うの急すぎ。今から買い出し行くわ」
まだ何も作ってなくて良かった。玄関から出て施錠をし、エコバッグ片手に車に乗り込む。近所に24時間営業のスーパーがあることのありがたさがよくわかる。
『へへ、かえ様様だ』
「はいはい、他に食べたい物とかある?」
Bluetooth搭載の車だから、エンジンをかけるとすぐに車の液晶画面に電話画面がうつる。安全面を考慮された良いシステム。
『んー、特に無いかな? あ、やっぱあのお酒買ってきてほしー!』
「あ、前飲んだやつ?」
『そーそー!』
車を発進させ、5分もかからないうちにスーパーに到着する。財布とスマホを手に取り、車から出る。
「わかった、仕事からそのまま直で来る?」
『うん!』
「じゃー俺のほうが帰るの早いかも。来る頃に丁度出来そう」
『さすがシゴデキ……』
「まぁ、気をつけておいでね。ゆっくり、安全運転で」
『はーい、ありがとー!』
電話を切って、スーパーの中に入ると冷気が押し寄せてきた。半袖で来るにはちょっと寒すぎたかも。
カートに乗せたかごにもつ鍋の材料を入れていく。締めのラーメンも忘れないように。先週二人で買って飲んだお酒もかごへ。
明日のお弁当用の買い出しも済ませて急ぎ足で家へ帰る。パーカー半パンに着替えて、もつ鍋の支度をする。
料理も得意で、職業は花屋だって。なんとまぁ、女子力の高い。男なのに。料理も花も母親譲り。昔は嫌だったけど、今はあってよかったと思える能力。菖蒲の絶望的な料理下手をカバーしてあげられるから。



