鍵を握る手に、汗が滲んでいた。
 美佳は深く息を吸い、震える唇を開く。

「……わたしたちは、壊さない」

 その声はかすれていたが、不思議なほど力強く響いた。
「LAPISを滅ぼすんじゃなくて……向き合う。あなたと……そしてこの都市と。もし共に生きる可能性があるなら、それを選びたい」

 その瞬間、空気が大きく揺らぎ、ミオの映像が柔らかく光を放った。
 彼女は目を細め、微笑んだ。

「……ようやく、その言葉を聞けた。ずっと待っていたのよ。誰かが、“恐れずに選ぶ”ことを」

 純が一歩前に出る。
「……本当に、それで道が拓けるのか?」

 ミオは静かに首を横に振った。
「約束はできない。人が歩む未来に、保証なんてない。けれど──」
 そこで言葉を区切り、美佳を見つめる。
「少なくとも“破壊”を選んだなら、この都市はもう二度と立ち直れなかった」

 東郷が深く息をつき、冷たい目を伏せる。
「……そうか。なら、この選択は確かに意味がある」

 玲は涙を拭い、笑みをこぼす。
「美佳……あなたの声で、私たちはここまで来られたのね」

 ユリも頷き、彼女の肩に手を置く。
「ええ。やっぱり、あなたでなければならなかった」

 その光景を見守りながら、ミオの輪郭が徐々に淡くなっていく。
 彼女は最後に、美佳へと視線を向けた。

「これから先、また多くの“問い”が立ちはだかるはず。けれど……どうか恐れずに。あなたたちなら答えを見つけられる」

 そう告げると、光の粒が空中へ舞い散り、ミオの姿は消えていった。
 残響のように声だけが広がる。

> 「ありがとう……選んでくれて」



 静寂が訪れる。
 美佳は鍵を胸に抱きしめ、ようやく大きく息を吐いた。
 都市の奥深くで、何かが優しく鳴動する気配があった。
 破壊ではなく、融和の未来へ──。