冷たい鉄骨の影に反射する光の像──御堂ミオは、なおも穏やかな笑みを浮かべていた。
 しかしその笑みは、待ち続けた孤独の果てのものだった。

> 「破壊か、共存か……その鍵が起動すれば、都市全体の未来が変わる」



 彼女の声は透明でありながら、確かな重さを帯びていた。

 美佳は鍵を胸に抱きしめたまま、立ち尽くす。
 喉がからからに乾き、唇がうまく動かない。
 ──こんな大きな選択を、自分が担えるのか。

 その沈黙を破ったのは、純だった。
「……俺は正直、LAPISを壊してしまうのが一番安全だと思ってた」
 彼の低い声が、広い空間に響いた。
「けど、ここに来て、彩音や……そしてお前が握ってるその鍵を見たら、単純に壊すだけじゃ駄目なんじゃないかって思い始めた」

 美佳は純を見上げる。彼の瞳はまっすぐで、恐怖と覚悟が入り混じっていた。

 すると、今度は東郷翔が静かに言葉を継いだ。
「俺はずっと監視者の立場でここにいた。だから、危険があれば即座に排除しろと叩き込まれてきた」
 短く息を吐く。
「だが……目の前の存在が“ただ消すべきシステム”じゃないとしたら? それを見極めるのが、今ここにいる俺たちの役割だろう」

 玲は少しだけ目を伏せ、唇を噛んだ。
「私には……正直、まだ答えが出せない。でも、美佳。あなたが選ぶ答えを、私は信じたい」

 ユリも頷いた。
「ええ。もう、ひとりで背負うことじゃない。私たち全員で選んでいいの」

 その声を聞いて、美佳の胸に熱が込み上げる。
 かつてフリーターとして、流されるだけだった自分。何も選べず、ただ日々を埋めるように過ごしてきた。
 でも今、目の前にあるのは逃げ場のない問い。
 ──選ばなければならない。

 視線を上げると、ミオは微笑んだまま、静かに彼女を見ていた。
 その瞳に「人の意志」を宿して。

 美佳は震える指で、鍵を掲げた。
「わたしたちは……」

 言葉を飲み込んだ瞬間、場の空気が一斉に張り詰める。
 工場の壁が低く唸り、まるで都市全体がその選択を待っているかのように。