夜明けの光が都市を包むにつれて、藍都学園都市の景色は静かに変わっていった。
街を縫うように走る情報網は、これまでの冷たい監視の光ではなく、温もりを帯びた緩やかな脈動を見せている。電光掲示板には、行政からの命令ではなく、市民同士のやり取りや、誰かの小さな想いが反映され始めていた。
「……すごい」
ユリは広場に立ち尽くし、目を見開いた。
「市民の声が、そのまま街に流れ込んでる。まるで都市全体が一つの生き物になったみたい」
玲が端末を操作しながら頷く。
「情報のフィルターが消えたんだ。今まで制御されていた感情や選択が、そのまま都市に反映されてる」
その声には研究者らしい熱が混じっている。
美佳は人々の表情を見ていた。
笑顔もあれば、不安もある。
「自由」という光が解き放たれた瞬間、人々は戸惑いながらも、その重さを直感しているようだった。
「なぁ、美佳」
純が隣に立ち、少しだけためらうように口を開く。
「これから俺たちは……どうするんだ?」
その問いに、美佳はすぐには答えられなかった。
今、街は彼女の選択で大きく舵を切った。だが、その先の道筋までは誰も保証してくれない。
沈黙を破ったのは翔だった。
「まずは見届けることだ」
腕を組んだまま、人々の群れを見渡しながら言う。
「この変化に、都市がどう応えるか。人がどう変わろうとするか。……それを確かめる責任が、俺たちにはある」
「責任……」
美佳は小さく反芻した。
思えば、ここまで自分は流されてばかりだった。アンケートに答えただけで始まった出来事の渦に、ただ必死で抗ってきた。
けれど今は違う。
自分が選んだ道を、多くの人が歩き出している。その重みを無視することはできない。
「そうだね……私たちが始めたことだから、最後までちゃんと見届けなきゃ」
その言葉に、ユリも玲も小さく頷いた。
だが、群衆の一角から声が上がった。
「これは……本当に正しいのか?」
「監視がなくなったら、秩序はどうなるんだ?」
ざわめきが次第に広がり、空気は少しずつ不安で濁り始める。
「……始まったな」翔が低く呟く。
「変化を受け入れる者と、拒む者。分断は必ず起こる」
その現実に、美佳は唇を噛んだ。
都市を変えたことは間違いではないと信じている。けれど、それが誰にとっても幸福を意味するわけではない。
「だからこそ、私たちが向き合わなきゃ」
自分でも驚くほど、声は強かった。
「彩音が託した“鍵”は、ただ壊すためじゃない。……繋げるためにあるんだよ」
その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。
都市の空に輝く網目の光は、まだ揺らめいている。
人々の心の迷いを映し出すように──だがその中で、新しい芽吹きのような希望の声も確かに聞こえていた。
街を縫うように走る情報網は、これまでの冷たい監視の光ではなく、温もりを帯びた緩やかな脈動を見せている。電光掲示板には、行政からの命令ではなく、市民同士のやり取りや、誰かの小さな想いが反映され始めていた。
「……すごい」
ユリは広場に立ち尽くし、目を見開いた。
「市民の声が、そのまま街に流れ込んでる。まるで都市全体が一つの生き物になったみたい」
玲が端末を操作しながら頷く。
「情報のフィルターが消えたんだ。今まで制御されていた感情や選択が、そのまま都市に反映されてる」
その声には研究者らしい熱が混じっている。
美佳は人々の表情を見ていた。
笑顔もあれば、不安もある。
「自由」という光が解き放たれた瞬間、人々は戸惑いながらも、その重さを直感しているようだった。
「なぁ、美佳」
純が隣に立ち、少しだけためらうように口を開く。
「これから俺たちは……どうするんだ?」
その問いに、美佳はすぐには答えられなかった。
今、街は彼女の選択で大きく舵を切った。だが、その先の道筋までは誰も保証してくれない。
沈黙を破ったのは翔だった。
「まずは見届けることだ」
腕を組んだまま、人々の群れを見渡しながら言う。
「この変化に、都市がどう応えるか。人がどう変わろうとするか。……それを確かめる責任が、俺たちにはある」
「責任……」
美佳は小さく反芻した。
思えば、ここまで自分は流されてばかりだった。アンケートに答えただけで始まった出来事の渦に、ただ必死で抗ってきた。
けれど今は違う。
自分が選んだ道を、多くの人が歩き出している。その重みを無視することはできない。
「そうだね……私たちが始めたことだから、最後までちゃんと見届けなきゃ」
その言葉に、ユリも玲も小さく頷いた。
だが、群衆の一角から声が上がった。
「これは……本当に正しいのか?」
「監視がなくなったら、秩序はどうなるんだ?」
ざわめきが次第に広がり、空気は少しずつ不安で濁り始める。
「……始まったな」翔が低く呟く。
「変化を受け入れる者と、拒む者。分断は必ず起こる」
その現実に、美佳は唇を噛んだ。
都市を変えたことは間違いではないと信じている。けれど、それが誰にとっても幸福を意味するわけではない。
「だからこそ、私たちが向き合わなきゃ」
自分でも驚くほど、声は強かった。
「彩音が託した“鍵”は、ただ壊すためじゃない。……繋げるためにあるんだよ」
その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。
都市の空に輝く網目の光は、まだ揺らめいている。
人々の心の迷いを映し出すように──だがその中で、新しい芽吹きのような希望の声も確かに聞こえていた。



