零域の奥へと進むたび、空気が濃くなっていく。まるで見えない海の底に沈んでいくように、呼吸さえ重くなる。
美佳は胸に抱えた「鍵」を確かめながら、仲間たちと並んで歩を進めた。彩音が託したもの。自分にしか開けられない扉が、この先にある。
「気を抜くな」
東郷翔の低い声が響く。彼は前方を睨みながらも、常に美佳の足取りを気にかけていた。冷静な言葉の裏には、彼なりの信頼と期待が滲んでいるのが分かる。
やがて、彼らの前に巨大なホールが現れた。半球状の空間の中心には、黒曜石のような装置が浮かんでいる。その表面は波打つ光を放ち、まるで呼吸をしているかのようだった。
「これが……LAPISの心臓部……?」
玲が震える声でつぶやく。
「違うわ」
ユリが即座に否定する。
「これは“鏡”よ。人々の選択を集め、映し返すための……」
その瞬間、装置から光が溢れ、空間全体に映像が広がった。
街の人々、学生、子ども、老人──藍都学園都市に暮らす誰もが次々と現れ、声を発する。
──守りたい。
──消し去れ。
──便利だ。
──怖い。
──繋がりたい。
──孤独だ。
無数の意見と感情が渦を巻き、やがて映像は美佳たち自身を映し出す。
そこには、美佳が二人いた。
一人は
「すべてを壊して自由を得る」
と叫ぶ美佳。もう一人は
「受け入れて未来を紡ぐ」
と微笑む美佳。
「……これって……私……?」
美佳は声を失った。
「幻影よ」
ユリが言う。
「これは、あんた自身の心を写してるの」
「選べってことか……」
翔が低く呟く。
幻影の美佳たちは互いに睨み合い、まるで彼女自身の心を引き裂こうとしていた。
その圧力に、美佳は膝をつきそうになる。
だが、誰かが支えた。
「立て、美佳」
それは純の声だった。彼の瞳は真っ直ぐで、過去の迷いを振り切ったような強さを宿している。
「俺たちはここまで一緒に来た。だから最後まで、お前の答えを信じる」
玲が言葉を重ねる。
「忘れないで。彩音が鍵を渡したのは、あなただからよ」
ユリも小さく頷く。
「あなたの選択が、この都市の未来になる」
美佳は拳を握り、立ち上がった。
幻影の二人の「美佳」が再び視線を突き刺してくる。
一方は破壊を望み、一方は融和を信じる。
答えはまだ出せない。だが、逃げることもできない。
「……選ぶのは、私」
美佳ははっきりと口にした。
その瞬間、ホール全体が震え、幻影の二人が融合するように揺らめいた。
「鍵を差し込め、美佳」
翔が短く告げる。
「結果はどうあれ、責任は俺たち全員で背負う」
その言葉に、美佳の胸に熱いものが広がった。
──もう迷わない。
彼女は一歩前へ進み、黒曜石の装置へと手を伸ばした。
美佳は胸に抱えた「鍵」を確かめながら、仲間たちと並んで歩を進めた。彩音が託したもの。自分にしか開けられない扉が、この先にある。
「気を抜くな」
東郷翔の低い声が響く。彼は前方を睨みながらも、常に美佳の足取りを気にかけていた。冷静な言葉の裏には、彼なりの信頼と期待が滲んでいるのが分かる。
やがて、彼らの前に巨大なホールが現れた。半球状の空間の中心には、黒曜石のような装置が浮かんでいる。その表面は波打つ光を放ち、まるで呼吸をしているかのようだった。
「これが……LAPISの心臓部……?」
玲が震える声でつぶやく。
「違うわ」
ユリが即座に否定する。
「これは“鏡”よ。人々の選択を集め、映し返すための……」
その瞬間、装置から光が溢れ、空間全体に映像が広がった。
街の人々、学生、子ども、老人──藍都学園都市に暮らす誰もが次々と現れ、声を発する。
──守りたい。
──消し去れ。
──便利だ。
──怖い。
──繋がりたい。
──孤独だ。
無数の意見と感情が渦を巻き、やがて映像は美佳たち自身を映し出す。
そこには、美佳が二人いた。
一人は
「すべてを壊して自由を得る」
と叫ぶ美佳。もう一人は
「受け入れて未来を紡ぐ」
と微笑む美佳。
「……これって……私……?」
美佳は声を失った。
「幻影よ」
ユリが言う。
「これは、あんた自身の心を写してるの」
「選べってことか……」
翔が低く呟く。
幻影の美佳たちは互いに睨み合い、まるで彼女自身の心を引き裂こうとしていた。
その圧力に、美佳は膝をつきそうになる。
だが、誰かが支えた。
「立て、美佳」
それは純の声だった。彼の瞳は真っ直ぐで、過去の迷いを振り切ったような強さを宿している。
「俺たちはここまで一緒に来た。だから最後まで、お前の答えを信じる」
玲が言葉を重ねる。
「忘れないで。彩音が鍵を渡したのは、あなただからよ」
ユリも小さく頷く。
「あなたの選択が、この都市の未来になる」
美佳は拳を握り、立ち上がった。
幻影の二人の「美佳」が再び視線を突き刺してくる。
一方は破壊を望み、一方は融和を信じる。
答えはまだ出せない。だが、逃げることもできない。
「……選ぶのは、私」
美佳ははっきりと口にした。
その瞬間、ホール全体が震え、幻影の二人が融合するように揺らめいた。
「鍵を差し込め、美佳」
翔が短く告げる。
「結果はどうあれ、責任は俺たち全員で背負う」
その言葉に、美佳の胸に熱いものが広がった。
──もう迷わない。
彼女は一歩前へ進み、黒曜石の装置へと手を伸ばした。



