ペンダントを端末のスロットにかざすと、金属が触れ合うような乾いた音が響き、赤い光が一瞬だけ白へと変わった。
 スクリーンが明滅し、やがて低い駆動音とともに古びた機械が息を吹き返す。

 ──《ACCESS GRANTED》

 文字が浮かぶと同時に、制御室全体が微かに震えた。
 警告灯の赤が消え、代わりに青白い光が天井から落ちてくる。
 廃墟に見えていた空間が、一瞬にして無機質な研究施設へと姿を変えたようだった。

「……変わったな」
 純が周囲を警戒しながら呟く。
「ここは、ただの工場なんかじゃない。──研究拠点だ」

 ユリが端末に視線を固定した。
「見て。データが展開されていくわ」

 スクリーンに次々と文字列が流れていく。
 映像ファイル、実験記録、そして人名のリスト。

 その中に、美佳は自分の名前を見つけて息をのんだ。

「……わたし……?」

 七海彩音、朝倉純、有栖川玲、宮下ユリ──彼女たちの名もある。
 すべての名前が「被験者リスト」として記載されていた。

「冗談……でしょ」
ユリの顔が青ざめる。
「私たちが……“実験対象”?」

「まさか……」
純が拳を握り締める。
「じゃあ、俺たちの出会いも、これまでの出来事も……すべて仕組まれていたってことか?」

 玲が唇を歪めた。
「だとしたら、笑えない皮肉ね。私たちは駒か」

 美佳はスクリーンを凝視した。
 映し出された次の項目に、彼女は凍りついた。

 ──《PROJECT: ANKETO》
 ──《OBJECTIVE: 心理的選択傾向の収集》
 ──《METHOD: 無意識下でのアンケート誘導》

「アンケート……?」
 美佳は思わず口にした。
「これが……この物語の名前……?」

 スクリーンにノイズが走り、突然、女性の声が流れ出した。

 《……聞こえる? ──あなたたちに、選んでほしいの》

 それは紛れもなく、あの電話の声だった。
 若く澄んだ声が、機械のざらつきを通して響く。

「やっぱり……」
美佳の瞳が揺れる。
「最初から……わたしたちは、この“声”に導かれていたんだ」

 純が美佳の肩に手を置いた。
「まだ正体はわからない。でも一つだけ確かだ。この声は俺たちを“試している”」

 玲が端末のスクリーンに目をやり、低く笑った。
「だったら、乗ってやる。この“アンケート”とやらに」

 ユリは小さく首を振った。
「……でも、選択を誤れば、取り返しがつかないかもしれない」

 そのとき、スクリーンに二つの選択肢が浮かび上がった。

 ──《A: すべての記録を公開する》
 ──《B: 記録を封印し、現状維持とする》

 制御室の空気が凍りついた。
 誰もすぐには言葉を発せなかった。

 美佳は、握りしめたペンダントの熱を感じながら、深く息を吸った。
 「選ばなきゃいけないんだね……わたしたちが」