赤い光が、断続的に闇を切り裂いていた。

 消えかけた警告灯が、ゆらぐ心臓の鼓動のように通路を赤黒く染める。その明滅に合わせて、美佳の鼓動も落ち着きを失っていった。



「……誰か、ここで何かをしてる」

 宮下ユリの声がかすかに震える。彼女の指先は無意識にジャケットの裾を握りしめていた。



 純が壁際のパネルに近づき、手袋越しに埃を拭った。

「動いてるな。内部電源が生きてる。……電力供給の系統も切られてない。となると、管理している“誰か”が存在する」



「廃墟じゃないってこと?」

玲が吐き捨てるように言った。

「ええ、むしろ“生きた施設”。ここはまだ稼働中……」



 美佳は手の中のペンダントに視線を落とす。鍵は赤い光のリズムに呼応するかのように淡く脈打っていた。

「やっぱり、この工場そのものがLAPISに繋がってる……」



 と、その時。

 壁のスピーカーから、再び声が流れた。



 《……イ……げて……》



 前よりもはっきりしている。若い女性の声──かつて電話越しに耳にした響きと、どこか似ていた。

 美佳の呼吸が詰まる。



「今の……」

「美佳、知ってる声か?」

純が鋭く尋ねる。

「……わからない。でも、聞き覚えがあるの。たしか……あのときの……」



 記憶が揺れる。第1章で受け取った謎の電話。あの声が脳裏をよぎる。



 その時、足元の床がわずかに振動した。

「……何?」

ユリが目を見開く。



 直後、奥の通路の扉が自動的に開いた。

 冷気のような風が吹き抜け、赤い光がさらに濃く揺らめく。



「招かれてるみたい…」

玲が小さく笑う。だがその声には緊張が隠しきれなかった。

「……進もう」

純が短く命じる。



 美佳は無意識にペンダントを握りしめた。熱が強まっている。

 導かれるように、一行は奥の部屋へと足を踏み入れた。



 そこは制御室のような空間だった。

 壁一面に並ぶモニターはノイズだらけだが、かすかに映像が浮かんでいる。

 古びた機械の唸りと、低い電子音。

 そして中央の台座には、LAPISのロゴが刻まれた端末が鎮座していた。



「……これが、LAPISの中枢のひとつ……?」

 美佳は息を呑む。



 その瞬間、端末のスクリーンが赤く点滅し、文字が浮かび上がった。



 ──《ACCESS KEY CONFIRMED》



 ペンダントの熱が一段と強まる。

 まるで「鍵」がここを開けろと告げているようだった。



「美佳……」

純が低く呼びかける。

「どうする? この扉を開けるのか?」



 赤い警告灯が不気味に明滅する中、美佳は唇を噛み、ゆっくりと頷いた。

「ここに来たのは……そのためだから」