突如、廊下の蛍光灯がすべて消え、深い闇が美佳たちを呑み込んだ。
視界は完全に奪われ、空気が一層重苦しくなる。息をする音すら、敵に聞き取られてしまいそうな緊張が漂った。
「純……」
美佳が小さく呼びかけると、すぐ隣から低い声が返る。
「大丈夫だ。動くな」
次の瞬間、闇の奥で何かが擦れる音がした。
布が揺れるような、しかし金属質を帯びた不気味な響き。
「……やっと会えたな」
あの声が、再び耳を震わせる。機械を通したような歪んだ声。それでも、明確に美佳へと向けられているのがわかった。
「あなたは……誰なの?」
闇の中で、美佳は声を震わせながら問い返す。
影は笑ったようだった。空気がかすかに歪み、その気配が肌を刺す。
「お前が持っている“鍵”……それこそが、すべてを繋ぐものだ。お前が答えるべき“アンケート”の、最後の問いだ」
「アンケート……?」
その言葉に、美佳の心臓が跳ねる。
最初に届いた不可解なアンケートの依頼。軽い気持ちで答えたはずのあの出来事が、今もなお彼女を縛り続けている。
「ふざけるな」
純が鋭く声を上げ、一歩踏み出す。その足音が闇に響くと同時に、玲が光源を展開しようと手を動かした。
だが、その瞬間——。
耳をつんざくような高周波が鳴り響き、玲の魔術回路が強制的に遮断された。
「くっ……! 干渉されてる……!」
翔も端末を操作するが、画面には意味不明な文字列が次々と流れ、制御を奪われていく。
「……こっちもやられたか」
闇の中で、影の声が低く囁く。
「答えろ。お前は、未来を選ぶか。過去に縛られるか」
その言葉に、美佳の胸の奥で熱いものが揺らいだ。
未来か、過去か。
まるであのアンケートの設問のように、二者択一を迫る響きだった。
「美佳!」
純の声が鋭く響く。
「惑わされるな! 選択を急ぐ必要はない!」
だが美佳は、影の声に囚われていた。
彩音から渡された“鍵”を握る手が震え、その冷たさが逆に現実感を増す。
そのとき、影がはっきりと口にした。
「お前が“扉”を開くのだ、三枝美佳——」
バチッ、と火花が散り、闇の一角に光が走る。
純が懐から閃光弾を投げ込んだのだ。
眩い光が廊下を焼き、一瞬だけ影の輪郭が浮かび上がる。
それは確かに人の形をしていた。しかし、その顔は奇妙に歪み、まるで複数の人物の顔を重ね合わせたような、不安定な存在だった。
「なっ……」
美佳の喉から声が漏れる。
「これは……人なの……?」
影は光を嫌うように後退し、歪んだ声を残して闇の奥へと消えていった。
「また会おう。答えを出す、その時にな」
残されたのは、焦げた匂いと、不気味な余韻だけだった。
純は深く息を吐き、美佳の肩に手を置く。
「……大丈夫か」
美佳は震える声で答えた。
「うん……でも、私……きっと、逃げられない」
その言葉が、誰よりも重く響いていた。
視界は完全に奪われ、空気が一層重苦しくなる。息をする音すら、敵に聞き取られてしまいそうな緊張が漂った。
「純……」
美佳が小さく呼びかけると、すぐ隣から低い声が返る。
「大丈夫だ。動くな」
次の瞬間、闇の奥で何かが擦れる音がした。
布が揺れるような、しかし金属質を帯びた不気味な響き。
「……やっと会えたな」
あの声が、再び耳を震わせる。機械を通したような歪んだ声。それでも、明確に美佳へと向けられているのがわかった。
「あなたは……誰なの?」
闇の中で、美佳は声を震わせながら問い返す。
影は笑ったようだった。空気がかすかに歪み、その気配が肌を刺す。
「お前が持っている“鍵”……それこそが、すべてを繋ぐものだ。お前が答えるべき“アンケート”の、最後の問いだ」
「アンケート……?」
その言葉に、美佳の心臓が跳ねる。
最初に届いた不可解なアンケートの依頼。軽い気持ちで答えたはずのあの出来事が、今もなお彼女を縛り続けている。
「ふざけるな」
純が鋭く声を上げ、一歩踏み出す。その足音が闇に響くと同時に、玲が光源を展開しようと手を動かした。
だが、その瞬間——。
耳をつんざくような高周波が鳴り響き、玲の魔術回路が強制的に遮断された。
「くっ……! 干渉されてる……!」
翔も端末を操作するが、画面には意味不明な文字列が次々と流れ、制御を奪われていく。
「……こっちもやられたか」
闇の中で、影の声が低く囁く。
「答えろ。お前は、未来を選ぶか。過去に縛られるか」
その言葉に、美佳の胸の奥で熱いものが揺らいだ。
未来か、過去か。
まるであのアンケートの設問のように、二者択一を迫る響きだった。
「美佳!」
純の声が鋭く響く。
「惑わされるな! 選択を急ぐ必要はない!」
だが美佳は、影の声に囚われていた。
彩音から渡された“鍵”を握る手が震え、その冷たさが逆に現実感を増す。
そのとき、影がはっきりと口にした。
「お前が“扉”を開くのだ、三枝美佳——」
バチッ、と火花が散り、闇の一角に光が走る。
純が懐から閃光弾を投げ込んだのだ。
眩い光が廊下を焼き、一瞬だけ影の輪郭が浮かび上がる。
それは確かに人の形をしていた。しかし、その顔は奇妙に歪み、まるで複数の人物の顔を重ね合わせたような、不安定な存在だった。
「なっ……」
美佳の喉から声が漏れる。
「これは……人なの……?」
影は光を嫌うように後退し、歪んだ声を残して闇の奥へと消えていった。
「また会おう。答えを出す、その時にな」
残されたのは、焦げた匂いと、不気味な余韻だけだった。
純は深く息を吐き、美佳の肩に手を置く。
「……大丈夫か」
美佳は震える声で答えた。
「うん……でも、私……きっと、逃げられない」
その言葉が、誰よりも重く響いていた。



