藍都学園都市の駅前ロータリーは、昼間でも薄い霧が漂っていた。
美佳は純と並んで歩きながら、コートの襟を立てる。
「……本当にここで待ち合わせで合ってるの?」
「間違いない。あいつの言う“別ルート”ってやつだ」
純が低く答えた直後、ロータリーの端に立つ男が片手を上げた。
黒いジャケットに無精ひげ、以前より痩せたように見える。
「東郷……翔?」
「よぉ、美佳。それに純も。お前ら、相変わらず危ないところに首突っ込んでるな」
彼は軽く笑いながら近づくと、美佳の肩越しに周囲を素早く確認した。
「ここじゃ話せない。ついて来い」
路地裏に入ると、冷たい風とともに、かすかにオゾンの匂いがした。
翔は足を止め、懐から薄いデータカードを取り出す。
「有栖川から預かった。お前らの“鍵”に関係する解析結果だ」
美佳の手が無意識にポケットの中の銀色の鍵を握る。
純も黙ってそれを見つめ、眉をひそめた。
「玲が……?」
「ああ。例の廃墟で拾った断片データ、彼女が解読した。だが半分以上、暗号化されたままだ。ユリって女なら、解けるかもしれん」
宮下ユリ──同窓会で一度顔を合わせたきりだが、印象は鮮烈だった。
美佳の脳裏に、あの時の視線と意味深な微笑みが蘇る。
「ユリは今どこに?」
「……旧藍都病院の地下だ」
その一言に、空気が重くなった。
旧藍都病院──LAPISの記録上は十年前に完全封鎖されたはずの場所。
翔は続けた。
「俺が案内できるのは入り口までだ。中は……お前ら自身で確かめろ」
美佳は鍵を握る手に力を込めた。
冷たい金属の感触が、ただの偶然や置き土産ではないことを告げている。
「分かった。行こう」
純の短い返事と共に、三人は霧の中へ歩き出した。
その背後で、翔は一瞬だけ何かを呟いたが、美佳は聞き取れなかった。
美佳は純と並んで歩きながら、コートの襟を立てる。
「……本当にここで待ち合わせで合ってるの?」
「間違いない。あいつの言う“別ルート”ってやつだ」
純が低く答えた直後、ロータリーの端に立つ男が片手を上げた。
黒いジャケットに無精ひげ、以前より痩せたように見える。
「東郷……翔?」
「よぉ、美佳。それに純も。お前ら、相変わらず危ないところに首突っ込んでるな」
彼は軽く笑いながら近づくと、美佳の肩越しに周囲を素早く確認した。
「ここじゃ話せない。ついて来い」
路地裏に入ると、冷たい風とともに、かすかにオゾンの匂いがした。
翔は足を止め、懐から薄いデータカードを取り出す。
「有栖川から預かった。お前らの“鍵”に関係する解析結果だ」
美佳の手が無意識にポケットの中の銀色の鍵を握る。
純も黙ってそれを見つめ、眉をひそめた。
「玲が……?」
「ああ。例の廃墟で拾った断片データ、彼女が解読した。だが半分以上、暗号化されたままだ。ユリって女なら、解けるかもしれん」
宮下ユリ──同窓会で一度顔を合わせたきりだが、印象は鮮烈だった。
美佳の脳裏に、あの時の視線と意味深な微笑みが蘇る。
「ユリは今どこに?」
「……旧藍都病院の地下だ」
その一言に、空気が重くなった。
旧藍都病院──LAPISの記録上は十年前に完全封鎖されたはずの場所。
翔は続けた。
「俺が案内できるのは入り口までだ。中は……お前ら自身で確かめろ」
美佳は鍵を握る手に力を込めた。
冷たい金属の感触が、ただの偶然や置き土産ではないことを告げている。
「分かった。行こう」
純の短い返事と共に、三人は霧の中へ歩き出した。
その背後で、翔は一瞬だけ何かを呟いたが、美佳は聞き取れなかった。



