夜の藍都学園都市は、不気味なほど静まり返っていた。
美佳と純は、零域からの帰還後、その足でLAPIS本部近くまで戻ってきていた。街灯が作る影が二人を細く切り裂くように伸びている。
「……あの鍵、まだ持ってるか?」
純の低い声が、背後から追ってくる。
美佳は一瞬だけためらい、バッグの中に手を入れた。金属の冷たい感触が指先を走る。それは七海彩音から渡された、あの小さな鍵。
彼女の顔が頭に浮かぶ──あの日、わずかに笑ったあの表情と、なにかを決意していた瞳。
「持ってる。でも、まだ何に使うのかはわからない」
そう答えながら、美佳は鍵を取り出す。街灯の光が反射し、夜の闇に小さな輝きが走った。
純はそれをじっと見つめ、わずかに眉をひそめる。
「……これは、旧校舎のものじゃない」
「え?」
「似てるけど違う。たぶん、別の場所──もっと厄介な場所の扉を開ける鍵だ」
美佳の胸にざわりとした波紋が広がる。旧校舎の影を追ってきたはずが、その先にはさらに別の“何か”があるというのか。
「彩音は、純にじゃなく、私に鍵を渡した。理由は……」
「お前にしか開けられないからだろ」
純の答えは即答だった。だが、その声には不安が混じっていた。
その時、街の向こうから突風が吹き抜けた。冷たい風が、二人の頬を刺す。ビルの谷間を通って響く低い唸り声のような風音に、美佳はぞくりとした。
「……誰か、見てる」
背筋に冷たい感覚が走り、無意識に後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。ただ、遠くの交差点に赤い信号が点滅しているだけだ。
「行こう。ここは長居する場所じゃない」
純が美佳の肩を軽く押し、足を速める。
だがその瞬間、美佳のポケットの端末が震えた。画面を見ると、番号は「非通知」。そして、その響きは──
『……また会うことになる。鍵を、手放すな』
あの日と同じ、無機質な声。通話は一方的に切れ、端末の履歴には何も残っていなかった。
「誰からだ?」
純の問いに、美佳は答えられなかった。ただ、心臓の鼓動が耳に響いている。
胸ポケットにしまった鍵が、まるで熱を帯びているかのように感じられた。
この小さな金属片が、自分たちをどこへ導くのか──その答えは、もうすぐ現れる。
美佳と純は、零域からの帰還後、その足でLAPIS本部近くまで戻ってきていた。街灯が作る影が二人を細く切り裂くように伸びている。
「……あの鍵、まだ持ってるか?」
純の低い声が、背後から追ってくる。
美佳は一瞬だけためらい、バッグの中に手を入れた。金属の冷たい感触が指先を走る。それは七海彩音から渡された、あの小さな鍵。
彼女の顔が頭に浮かぶ──あの日、わずかに笑ったあの表情と、なにかを決意していた瞳。
「持ってる。でも、まだ何に使うのかはわからない」
そう答えながら、美佳は鍵を取り出す。街灯の光が反射し、夜の闇に小さな輝きが走った。
純はそれをじっと見つめ、わずかに眉をひそめる。
「……これは、旧校舎のものじゃない」
「え?」
「似てるけど違う。たぶん、別の場所──もっと厄介な場所の扉を開ける鍵だ」
美佳の胸にざわりとした波紋が広がる。旧校舎の影を追ってきたはずが、その先にはさらに別の“何か”があるというのか。
「彩音は、純にじゃなく、私に鍵を渡した。理由は……」
「お前にしか開けられないからだろ」
純の答えは即答だった。だが、その声には不安が混じっていた。
その時、街の向こうから突風が吹き抜けた。冷たい風が、二人の頬を刺す。ビルの谷間を通って響く低い唸り声のような風音に、美佳はぞくりとした。
「……誰か、見てる」
背筋に冷たい感覚が走り、無意識に後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。ただ、遠くの交差点に赤い信号が点滅しているだけだ。
「行こう。ここは長居する場所じゃない」
純が美佳の肩を軽く押し、足を速める。
だがその瞬間、美佳のポケットの端末が震えた。画面を見ると、番号は「非通知」。そして、その響きは──
『……また会うことになる。鍵を、手放すな』
あの日と同じ、無機質な声。通話は一方的に切れ、端末の履歴には何も残っていなかった。
「誰からだ?」
純の問いに、美佳は答えられなかった。ただ、心臓の鼓動が耳に響いている。
胸ポケットにしまった鍵が、まるで熱を帯びているかのように感じられた。
この小さな金属片が、自分たちをどこへ導くのか──その答えは、もうすぐ現れる。



