扉の向こうは、広大な円形のホールだった。
天井まで届くような高い壁一面に、光の粒が無数に浮かび、まるで星空のように瞬いている。
だが、それは星ではなかった。ホログラムで映し出された、無数の人影──笑顔、怒り、恐怖、そして涙の瞬間が、断片的に流れている。
美佳は足がすくんだ。
「これ……全部、人の記憶……?」
彩音が淡々と答える。
「アンケートを通じて吸い上げられた意識の断片よ。対象者の思考、感情、行動履歴……すべてここに保管されている」
純は壁際を歩き、ひとつのパネルに手を触れた。瞬間、パネルの表面に“SAE_03_MIKA”の文字が浮かび上がり、美佳自身の過去の光景が映し出される。
友人と笑う姿、バイト先での会話、ひとりでスマホを見つめている瞬間──。
そして、あの日、アンケートの最後の質問を送信する自分の顔。
「やめて……!」
美佳は思わず声を上げた。だが映像は止まらない。
最後の質問を送信した瞬間から、記録はさらに詳細になり、声や匂い、鼓動までも再現されていた。
「これが“記録者”の役割だ」
純の声は低い。
「LAPISは、ただ監視するだけじゃない。選ばれた対象者は、この記録網の一部にされる」
「一部って……つまり、私は……」
「そうだ。お前は既に、この都市の“記録者”候補だ」
美佳の背筋に冷たい汗が流れる。
候補──その言葉が、逃げ場のない宣告のように響いた。
彩音は静かに近づき、手にしていた小型端末を美佳に差し出した。
「この端末で、自分の記録を消去することはできる。でも、代わりに別の人間が“記録者”として選ばれる」
「……誰かを犠牲にすれば、私は自由になれるってこと?」
美佳は端末を見下ろす。液晶には淡く輝く“選択”の二文字。
純は黙って美佳の視線を受け止めたが、その目の奥には何かを迷う影があった。
「お前が決めろ。俺たちは見届ける」
部屋の中央では、巨大な円盤状の装置が低く唸りを上げている。ケーブルは壁のホログラムに直結し、流れ込む記憶の映像が次々と切り替わっていく。
その中には──七海彩音の過去も、東郷翔の姿も、そして有栖川玲の顔もあった。
「なんで……こんなこと……」
美佳は唇を噛み、視線を落とす。
手の中の端末が、心臓の鼓動に合わせてかすかに振動していた。
──そのとき、頭の奥で再びあの声が響く。
『選べ。三枝美佳。選択こそが、この都市を動かす』
美佳は目を閉じ、深く息を吸った。
そして、端末の画面に指先を伸ばす──。
天井まで届くような高い壁一面に、光の粒が無数に浮かび、まるで星空のように瞬いている。
だが、それは星ではなかった。ホログラムで映し出された、無数の人影──笑顔、怒り、恐怖、そして涙の瞬間が、断片的に流れている。
美佳は足がすくんだ。
「これ……全部、人の記憶……?」
彩音が淡々と答える。
「アンケートを通じて吸い上げられた意識の断片よ。対象者の思考、感情、行動履歴……すべてここに保管されている」
純は壁際を歩き、ひとつのパネルに手を触れた。瞬間、パネルの表面に“SAE_03_MIKA”の文字が浮かび上がり、美佳自身の過去の光景が映し出される。
友人と笑う姿、バイト先での会話、ひとりでスマホを見つめている瞬間──。
そして、あの日、アンケートの最後の質問を送信する自分の顔。
「やめて……!」
美佳は思わず声を上げた。だが映像は止まらない。
最後の質問を送信した瞬間から、記録はさらに詳細になり、声や匂い、鼓動までも再現されていた。
「これが“記録者”の役割だ」
純の声は低い。
「LAPISは、ただ監視するだけじゃない。選ばれた対象者は、この記録網の一部にされる」
「一部って……つまり、私は……」
「そうだ。お前は既に、この都市の“記録者”候補だ」
美佳の背筋に冷たい汗が流れる。
候補──その言葉が、逃げ場のない宣告のように響いた。
彩音は静かに近づき、手にしていた小型端末を美佳に差し出した。
「この端末で、自分の記録を消去することはできる。でも、代わりに別の人間が“記録者”として選ばれる」
「……誰かを犠牲にすれば、私は自由になれるってこと?」
美佳は端末を見下ろす。液晶には淡く輝く“選択”の二文字。
純は黙って美佳の視線を受け止めたが、その目の奥には何かを迷う影があった。
「お前が決めろ。俺たちは見届ける」
部屋の中央では、巨大な円盤状の装置が低く唸りを上げている。ケーブルは壁のホログラムに直結し、流れ込む記憶の映像が次々と切り替わっていく。
その中には──七海彩音の過去も、東郷翔の姿も、そして有栖川玲の顔もあった。
「なんで……こんなこと……」
美佳は唇を噛み、視線を落とす。
手の中の端末が、心臓の鼓動に合わせてかすかに振動していた。
──そのとき、頭の奥で再びあの声が響く。
『選べ。三枝美佳。選択こそが、この都市を動かす』
美佳は目を閉じ、深く息を吸った。
そして、端末の画面に指先を伸ばす──。



