薄暗い廊下の先にある扉を押し開けた瞬間、冷気が頬を撫でた。
中は高い天井と、壁一面を覆う棚に囲まれた広大な空間。
古びた書籍、黄ばんだ巻物、封印のように固く閉ざされた金属ケースが整然と並んでいる。天井から吊るされた無機質な蛍光灯が、かすかな唸りを立てながら薄明かりを落としていた。
足元には細かな埃が積もっているが、棚の表面は不自然なほどに清潔だ。誰かが定期的に手入れしている──それが、この部屋が単なる廃墟ではなく、今も“現役”で使われていることを示していた。
「……ここが、LAPISの中枢……?」
美佳は息を呑み、周囲をゆっくりと見回す。
その声は、自分の耳にさえ小さく響いた。
「正確には、LAPISが保管している“記録”の一部だ」
純が低く答え、棚の間を抜けていく。
彼は一冊の黒革のファイルを引き抜き、埃を払って無造作に開いた。
ページには日付と事件名がびっしりと並び、その横に貼られたモノクロ写真が冷たい視線を投げかけてくる。
「これ……全部、藍都学園都市で起きた事件?」
「そうだ。そして、その多くに“アンケート”が関わっている」
めくられるページごとに、美佳は息を詰まらせた。
失踪者、変死者、精神崩壊を起こした者──すべてに共通して、送られてきた“アンケート”の記録が添えられている。
「偶然なんかじゃない……」
その呟きは、かすかに震えていた。
純の横顔は硬く、どこか覚悟を決めた者のものだった。
「この記録室の存在を知っているのは、LAPISの上層部と……ほんの数人だけだ」
そのとき、部屋の奥で規則正しい足音が響く。
棚の影から現れたのは七海彩音だった。
彼女は立ち止まり、静かに美佳へと視線を送る。
「彩音……」
「美佳、その手に持っている鍵……それがないと、この部屋の“最奥”には入れない」
彩音の声は落ち着いていたが、奥底に張り詰めた緊張が感じられた。
「行くべきよ。そこであなたは、全部を知ることになる」
美佳は深く息を吸い、ポケットから鍵を取り出す。
冷たい金属の感触が、まるで心臓の鼓動を測るように指先へと伝わる。
次の瞬間、部屋の奥の分厚い扉が、内部から何かに押されるようにゆっくりと開き始めた。
その暗闇は、まるで底の見えない井戸のように深い。
純と彩音、そして美佳は、互いに短く視線を交わし、何も言わずに踏み出した。
──扉の向こうには、彼女たちの過去と未来が交錯する、“核心”が待っていた。
中は高い天井と、壁一面を覆う棚に囲まれた広大な空間。
古びた書籍、黄ばんだ巻物、封印のように固く閉ざされた金属ケースが整然と並んでいる。天井から吊るされた無機質な蛍光灯が、かすかな唸りを立てながら薄明かりを落としていた。
足元には細かな埃が積もっているが、棚の表面は不自然なほどに清潔だ。誰かが定期的に手入れしている──それが、この部屋が単なる廃墟ではなく、今も“現役”で使われていることを示していた。
「……ここが、LAPISの中枢……?」
美佳は息を呑み、周囲をゆっくりと見回す。
その声は、自分の耳にさえ小さく響いた。
「正確には、LAPISが保管している“記録”の一部だ」
純が低く答え、棚の間を抜けていく。
彼は一冊の黒革のファイルを引き抜き、埃を払って無造作に開いた。
ページには日付と事件名がびっしりと並び、その横に貼られたモノクロ写真が冷たい視線を投げかけてくる。
「これ……全部、藍都学園都市で起きた事件?」
「そうだ。そして、その多くに“アンケート”が関わっている」
めくられるページごとに、美佳は息を詰まらせた。
失踪者、変死者、精神崩壊を起こした者──すべてに共通して、送られてきた“アンケート”の記録が添えられている。
「偶然なんかじゃない……」
その呟きは、かすかに震えていた。
純の横顔は硬く、どこか覚悟を決めた者のものだった。
「この記録室の存在を知っているのは、LAPISの上層部と……ほんの数人だけだ」
そのとき、部屋の奥で規則正しい足音が響く。
棚の影から現れたのは七海彩音だった。
彼女は立ち止まり、静かに美佳へと視線を送る。
「彩音……」
「美佳、その手に持っている鍵……それがないと、この部屋の“最奥”には入れない」
彩音の声は落ち着いていたが、奥底に張り詰めた緊張が感じられた。
「行くべきよ。そこであなたは、全部を知ることになる」
美佳は深く息を吸い、ポケットから鍵を取り出す。
冷たい金属の感触が、まるで心臓の鼓動を測るように指先へと伝わる。
次の瞬間、部屋の奥の分厚い扉が、内部から何かに押されるようにゆっくりと開き始めた。
その暗闇は、まるで底の見えない井戸のように深い。
純と彩音、そして美佳は、互いに短く視線を交わし、何も言わずに踏み出した。
──扉の向こうには、彼女たちの過去と未来が交錯する、“核心”が待っていた。



