藍都学苑の図書館。薄暗い読書スペースの奥、誰も足を踏み入れない静寂の中で、美佳は立ち尽くしていた。



彼女の手には、1枚のアンケート用紙が握られていた。見慣れた、しかし決して記憶の中のものとは一致しないそれ。記された設問はどれも、過去に受けたどのアンケートとも微妙に異なっていた。



> Q:あなたの「正義」は誰のものですか?







> Q:もしあなたが記憶を失っても、真実を知りたいと思いますか?







> Q:この物語の「結末」を、書き換える覚悟はありますか?







指先が震えた。この用紙は、単なる調査票ではない。「LAPIS」の本部があるこの学園都市の中枢、いや、もっと深い意図を孕んだ《鍵》なのだ。



──この世界は、誰かによって編集されている。



そんな直感が美佳の胸をかすめた瞬間、誰かが背後から声をかけた。



「……見つけたよ、美佳」



振り返ると、そこに立っていたのは朝倉純だった。けれど、その瞳は知っている彼のものとは少し違う。温もりの奥に、冷たい決意の色が混じっていた。



「純……どういうこと? あなたは……味方、だったよね?」



「味方かどうかは、まだ決まってない。少なくとも、君が《真実》に触れた以上、もう“日常”には戻れない」



そう言って純は、美佳の手からアンケート用紙を奪い取ろうとした。だが、美佳は一歩引いてそれをかざす。



「やめて。この紙には何かがある。私……知りたい。知る覚悟があるの。例え、すべてを壊すことになっても」



その言葉に、純は小さく目を見開き、そして微かに微笑んだ。



「……だったら、次の扉を開ける資格はある」



直後、図書館の奥に隠されていた隠し扉がゆっくりと開いた。かつて誰かが施した記憶の封印が、ついに解かれ始める。



その先には──LAPISの中枢へとつながる、“禁忌の記録室”。



美佳は深く息を吸い、純とともに、闇の向こうへと足を踏み出した。



そして、彼女の心に響いた言葉はただひとつ。



> 「あなたの物語を、あなた自身の手で取り戻して」