「……これが、LAPISの裏側──“Project MIRAGE”の全貌……?」
モニターに表示された文書の冒頭を読んだ瞬間、美佳の喉が乾いた。
それは単なる研究報告書ではなかった。都市全体を舞台にした、認知・心理操作の実験記録。そしてその中心にあったのが、「アンケート」による心理誘導システムだった。
画面には、各期の被験者データ、成功率、心理応答のトリガー条件、そして「鍵」による記憶操作のログが細かく記されていた。
「これ、全部……人の感情と記憶を、操作してたってこと……?」
純が目を見開き、マウスをスクロールさせていく。そこには個人コード、対象者の心理傾向、行動パターン、トリガーワード──。
一見匿名化されたデータだったが、解析された人物プロファイルの中には、明らかに美佳自身を指していると思われる記述も含まれていた。
> 被験者No.1427:サエグサ・ミカ。
特筆事項:現実受容傾向弱。情動記憶による反応が高く、誘導成功率87%。
推定キートリガー:「信頼」「後悔」「赦し」
「ふざけないで……これ、人の心を……!」
美佳の手が、震えていた。彼女はこれまで、自分の選択で生きているつもりだった。しかし、その選択はあらかじめ設計され、測定され、誘導されたものだったかもしれないのだ。
「つまり、彩音ちゃんは……自分がその被験者でもあり、協力者でもあった……?」
純が、口を開く。
画面の下部、アクセスログの中に『NANAMI_A-87』というIDが何度も出現していた。そこには、特定ファイルへのアクセス記録、編集履歴、そして警告コード。
何かに気づいた彩音が、記録を書き換えたり、データを隠した可能性が浮かび上がってきた。
「彩音ちゃんは、気づいたんだ……この実験の危険性に。そして、止めようとした」
「だけど、止められなかった。だから、“鍵”を残した」
美佳は鍵を握りしめた。
記録の最後、ファイルの末尾に添えられていた、未送信のメッセージ。それは、保存者による遺書のようにも見えた。
> 『もし、これを見ている誰かがいるなら──私はもう、ここにはいないかもしれない。
だけど、どうか忘れないで。人の心は、操作されるものじゃない。
自分で考えて、選んで、生きるもの。
私はその証明になりたかった。間に合わなかったけど、あなたなら、きっと……。』
「彩音ちゃん……」
画面の光が、ふたりの顔を照らしていた。外は夜のまま、都市の喧騒から切り離された静寂の中で、二人は黙ってその言葉を読んでいた。
やがて、純が画面を閉じる。
「これを公にすれば、LAPISも、藍都学園都市も、ただじゃ済まない。でも……このまま隠していいのか?」
美佳は、もう迷っていなかった。
「私は知ってしまった。だから……知ろうとしない人たちに、届くようにしたい」
それは、誰かに託された想いへの返答であり、美佳自身の“選択”だった。
遠くでサイレンの音が鳴る。時間がない。だが、それでも二人はゆっくりと歩き出した。次なる扉を開くために──。
モニターに表示された文書の冒頭を読んだ瞬間、美佳の喉が乾いた。
それは単なる研究報告書ではなかった。都市全体を舞台にした、認知・心理操作の実験記録。そしてその中心にあったのが、「アンケート」による心理誘導システムだった。
画面には、各期の被験者データ、成功率、心理応答のトリガー条件、そして「鍵」による記憶操作のログが細かく記されていた。
「これ、全部……人の感情と記憶を、操作してたってこと……?」
純が目を見開き、マウスをスクロールさせていく。そこには個人コード、対象者の心理傾向、行動パターン、トリガーワード──。
一見匿名化されたデータだったが、解析された人物プロファイルの中には、明らかに美佳自身を指していると思われる記述も含まれていた。
> 被験者No.1427:サエグサ・ミカ。
特筆事項:現実受容傾向弱。情動記憶による反応が高く、誘導成功率87%。
推定キートリガー:「信頼」「後悔」「赦し」
「ふざけないで……これ、人の心を……!」
美佳の手が、震えていた。彼女はこれまで、自分の選択で生きているつもりだった。しかし、その選択はあらかじめ設計され、測定され、誘導されたものだったかもしれないのだ。
「つまり、彩音ちゃんは……自分がその被験者でもあり、協力者でもあった……?」
純が、口を開く。
画面の下部、アクセスログの中に『NANAMI_A-87』というIDが何度も出現していた。そこには、特定ファイルへのアクセス記録、編集履歴、そして警告コード。
何かに気づいた彩音が、記録を書き換えたり、データを隠した可能性が浮かび上がってきた。
「彩音ちゃんは、気づいたんだ……この実験の危険性に。そして、止めようとした」
「だけど、止められなかった。だから、“鍵”を残した」
美佳は鍵を握りしめた。
記録の最後、ファイルの末尾に添えられていた、未送信のメッセージ。それは、保存者による遺書のようにも見えた。
> 『もし、これを見ている誰かがいるなら──私はもう、ここにはいないかもしれない。
だけど、どうか忘れないで。人の心は、操作されるものじゃない。
自分で考えて、選んで、生きるもの。
私はその証明になりたかった。間に合わなかったけど、あなたなら、きっと……。』
「彩音ちゃん……」
画面の光が、ふたりの顔を照らしていた。外は夜のまま、都市の喧騒から切り離された静寂の中で、二人は黙ってその言葉を読んでいた。
やがて、純が画面を閉じる。
「これを公にすれば、LAPISも、藍都学園都市も、ただじゃ済まない。でも……このまま隠していいのか?」
美佳は、もう迷っていなかった。
「私は知ってしまった。だから……知ろうとしない人たちに、届くようにしたい」
それは、誰かに託された想いへの返答であり、美佳自身の“選択”だった。
遠くでサイレンの音が鳴る。時間がない。だが、それでも二人はゆっくりと歩き出した。次なる扉を開くために──。



