その日、美佳のスマホには新しい通知が届いていた。
 差出人は「R-000」、差出時刻は未明の3時33分。眠っていた時間帯だったはずなのに、スマホの通知履歴には“既読済”と表示されていた。

 表示されたメッセージは、たった一文。

> 『次の扉は、あなたの記憶の中にあります。』



 美佳は息を呑んだ。ふと、脳裏に浮かんだのは、あの──黒い扉の夢だった。
 重く冷たい鉄の扉。無数の手が伸びてくる。壁に刻まれた、無機質な数字の羅列。

 (……何なの、これ)

 震える手でスマホを伏せ、ベッドに深く沈み込む。
 それでも背筋に這い寄るような感覚が、じっとりと汗になって背中を濡らしていた。

 

 

 午後、美佳は街へ出た。
 繁華街の片隅に、旧校舎を模した建物がある。ガラス張りのアーチと白い壁が特徴的な複合施設──そこに設置された案内板が目に止まった。

> 《藍都学苑 OB/OG 同窓会 ー 特設フロア ご案内》



 その下には、美佳の通っていた進学校「藍都学苑」の旧ロゴがあった。

 (……偶然? それとも……)

 通りすがりの視線に追われるように、美佳は自販機の影に身を隠した。
 と、そのとき、ふいに後ろから声がした。

「……やっぱり、美佳じゃん」

 振り返ると、そこには懐かしい顔──七海彩音(ななみあやね)が立っていた。

 柔らかな笑み。短めのボブカット。
 高校時代、よく昼休みに一緒にパンを分け合った友人だった。

「えっ、彩音……? 本当に?」

「まさかこんなとこで会えるなんて。あ、同窓会……来るんでしょ?」

「う、うん……うん、そう、たまたま見つけて……」

 答えながらも、美佳の脳裏には警戒の灯がともっていた。

 (彩音も“あのアンケート”に──?)

 答え合わせは、もうすぐだった。
 同窓会という名の再会が、美佳を“かつての記憶”と、“失われた真実”の扉へと導いていく。