無機質な白い扉の前で、彩音は立ち止まった。
その手には、小さな銀色の鍵が握られている。鈍い光を帯びたその鍵は、彼女の指の中でわずかに震えていた。長く持ちすぎたのだ。心ごと、冷えてしまいそうなほどに。
「……この先に、すべてがあるの?」
美佳の問いかけに、彩音はゆっくりと頷いた。
「ええ。でも……それを開けるかどうかは、あなたの意思に委ねられている。私はそれを、あなたに渡すために、ここに来たの」
鍵を渡されるのだと気づいた瞬間、美佳は息をのんだ。
まるで、この一瞬が運命の岐路であるかのように。
それでも、手を伸ばさなければ、何も変わらない。
彩音の手の中で、鍵が静かに持ち上げられた。
それはまるで「重荷」のようでもあり、「解放」のようでもあった。
「どうして……私なの? あなたが開ければいいじゃない」
美佳の声にはわずかにためらいが混じっていた。
彩音はふっと笑った。儚い、けれどどこか懐かしい笑みだった。
「私は、記録する者でしかない。選び、開き、進むのは、あなた──三枝美佳の役目よ。これはあなたがずっと背負ってきた物語なの。あなたの手で、結末を迎えなきゃ」
その言葉に、心の奥で何かが静かにほどけた気がした。
彩音が鍵をそっと美佳の手のひらに乗せると、その金属の冷たさが指先から伝わった。
「ここを開けた瞬間、すべてが動き出すわ。もう、元には戻れない」
美佳は鍵を見つめた。
彼女の指先が、かすかに震えていた。だけど、その震えを抑え込むように、彼女は一歩、扉へと近づいた。
「それでも、開けるわ。……わたしの物語を終わらせるために」
鍵が錠に差し込まれ、カチリと音を立てて回る。
空気が変わった。扉の向こうにあるのは、おそらく想像すらできない“真実”──けれど、もう逃げないと決めた。
美佳は深く息を吸い込むと、扉の取っ手に手をかけた。
「ありがとう、彩音」
その背中を、彩音は何も言わずに見送った。
すべてを託すような、静かな眼差しで。
その手には、小さな銀色の鍵が握られている。鈍い光を帯びたその鍵は、彼女の指の中でわずかに震えていた。長く持ちすぎたのだ。心ごと、冷えてしまいそうなほどに。
「……この先に、すべてがあるの?」
美佳の問いかけに、彩音はゆっくりと頷いた。
「ええ。でも……それを開けるかどうかは、あなたの意思に委ねられている。私はそれを、あなたに渡すために、ここに来たの」
鍵を渡されるのだと気づいた瞬間、美佳は息をのんだ。
まるで、この一瞬が運命の岐路であるかのように。
それでも、手を伸ばさなければ、何も変わらない。
彩音の手の中で、鍵が静かに持ち上げられた。
それはまるで「重荷」のようでもあり、「解放」のようでもあった。
「どうして……私なの? あなたが開ければいいじゃない」
美佳の声にはわずかにためらいが混じっていた。
彩音はふっと笑った。儚い、けれどどこか懐かしい笑みだった。
「私は、記録する者でしかない。選び、開き、進むのは、あなた──三枝美佳の役目よ。これはあなたがずっと背負ってきた物語なの。あなたの手で、結末を迎えなきゃ」
その言葉に、心の奥で何かが静かにほどけた気がした。
彩音が鍵をそっと美佳の手のひらに乗せると、その金属の冷たさが指先から伝わった。
「ここを開けた瞬間、すべてが動き出すわ。もう、元には戻れない」
美佳は鍵を見つめた。
彼女の指先が、かすかに震えていた。だけど、その震えを抑え込むように、彼女は一歩、扉へと近づいた。
「それでも、開けるわ。……わたしの物語を終わらせるために」
鍵が錠に差し込まれ、カチリと音を立てて回る。
空気が変わった。扉の向こうにあるのは、おそらく想像すらできない“真実”──けれど、もう逃げないと決めた。
美佳は深く息を吸い込むと、扉の取っ手に手をかけた。
「ありがとう、彩音」
その背中を、彩音は何も言わずに見送った。
すべてを託すような、静かな眼差しで。



