──どうして、こんなにも懐かしいのだろう。

彩音の声が耳に残る。「ちゃんと、迎えにきたよ」と微笑むその表情は、今も鮮明に記憶の中に焼きついている。

だが、美佳にはまだわからない。彼女が「どこへ導こうとしているのか」、その全貌は霧の向こうだ。

「彩音……あなたは、何を知っているの?」

風に揺れる制服の裾。あれは、LAPISの制服ではない。かつての藍都学苑の、懐かしいセーラー服──。それが、彼女の存在がただの幻覚でないことを告げていた。

「答えはもうすぐ、あたしの役目は、あなたに“鍵”を渡すこと。それだけ」

「鍵……?」

「うん。思い出して。あの日、わたしと最後に話した場所を。そこに、あなたを待つ“扉”があるの。今のあなたなら開けられる。だから、お願い──向かって。時間がないの」

そう言うと、彩音は静かに手を差し出した。その手の中に、小さな金属のペンダントが握られていた。

美佳の胸がざわめく。その形に見覚えがある。中学のとき、二人で「おそろいにしよう」と言って買ったものだ。が──それは、失くしたはずのものだった。

「……どうして、これが……?」

「あなたの心の中に、ずっとあったからだよ」

彩音が手を開いた瞬間、ペンダントがふわりと宙に浮かび、美佳の首もとへ吸い込まれるように戻っていった。

カチリ。

小さな音とともに、空間にひびが入る。

「扉が開いた──あとは、あなたが歩く番」

目を見開いた美佳の前で、彩音の姿は薄れていく。

「待って……まだ、話したいことが……!」

「また会えるよ。ほんとのあなたに、戻れたなら──」

風が吹き抜け、光が走る。

気づけば、美佳は白い廊下に立っていた。足元には、古びた木の床。壁に並ぶ写真。見覚えのある──旧校舎の内部だった。

そして、目の前にあったのは「記録室」。封鎖されたはずの場所。

「鍵は、ここを開けるものだった……?」

美佳はそっと手を伸ばす。ペンダントが淡く光ると、重い扉が軋みを上げて開いた──