ユリと美佳がコアデータに近づいたその瞬間、空間に異変が走った。辺りの光が一気に青白く点滅し始め、警告音のような低音が地鳴りのように響く。

「侵入者を確認。LAPISシステム防衛プロトコル、起動します」

機械的な女性の声が空間全体に響き渡った。声に反応するように、宙に浮かんだ幾何学模様が回転を始め、中央の立方体──コアデータの周囲を囲むように結界が展開される。

「来たわね……防衛機構」

ユリは怯むことなく立ち上がると、美佳の前に腕を広げて立った。

「後ろにいて、美佳。ここはわたしが対処する」

「でも……ユリ、一人でなんて無理だよ!」

「わたしには、LAPISのシステムにアクセスできる裏ルートがある。もともと“管理補助者”として潜入してたの。自分の意思で、ここに来たのよ」

ユリの声には、迷いがなかった。

空間の一角に、黒い靄のようなものが渦巻き始める。それは形を取りながら、人型に変化し、美佳の目の前に立ちふさがった。

「……これが、ラピスの“防衛存在”? 人間の形をしてる……」

「これは“記憶に囚われた人たち”の投影なの。自分を失い、再構築に完全に飲まれた者たち……意志を持たない、プログラムに支配された影」

影たちが一斉に美佳たちへと襲いかかってくる。ユリは懐から小型の端末を取り出すと、それに手をかざした。すると、空間の一部がまばゆい光を放ち、何かのシールドのようなエネルギーが発動する。

「シールド展開。5分しか持たない。今のうちに、あのコアに接触して!」

「わ、わかった!」

美佳は息を詰めながら、コアへ向かって走り出す。周囲を舞う光、警告音、迫りくる影。まるで夢の中を走っているような感覚だった。だが、美佳は知っていた。

これは現実だ。彼女の“記憶”と“存在”がかかった戦いだ。

あと少し──コアまで、あと数メートル。

だが、突如として巨大な黒い腕が彼女の前に現れた。それは影の集合体のような形をしており、美佳を飲み込もうとする。

「……ダメ! ここで終わりたくない!」

その瞬間、美佳の胸の奥から熱い光が弾けた。手のひらが自然に前に出て、まるで光を放つような感覚とともに、黒い腕が一瞬で霧散する。

「なに、これ……!?」

ユリが目を見開いた。

「……覚醒しかけてる。美佳、あなた自身が“鍵”なのかもしれない。あなたの記憶が、LAPISを制御できるんだわ」

その言葉に、美佳は自分の中で何かが開かれるのを感じた。

忘れていた感情。失われた記憶。誰かを大切に思っていた時間。ぬくもり。

「わたし、思い出しかけてる……!」

そして、美佳の手がついに、コアデータに触れた。