──まぶしい。
目を開けた瞬間、美佳は自分がどこにいるのか分からなくなった。
足元に広がるのは、どこまでも白い床。その上に散らばる無数の断片─│写真、日記、教室、駅のホーム、アンケートの画面。
「ここは……?」
声に出すと、自分の声がやけに遠く響いた。重力も温度もない空間。ただ、記憶だけが散らばっていた。
「ようこそ、“L-001記憶層”へ。」
不意に背後から声がした。振り向くと、そこに立っていたのは──朝倉純だった。
「純……くん?」
美佳は言葉を詰まらせる。
藍都学苑時代、誰よりも穏やかで、優しい眼差しを向けてくれた少年。その姿は、あの頃のままだった。
「君の記憶が作り出した、ぼくの像さ。本物のぼくじゃない。」
「じゃあ……これは全部、私の記憶?」
「そう。LAPISが接続を試みるとき、最初に通るのが“意識の整合”だ。君の中にある未解決の断片を整理し、今の“君”を再定義する。」
純の声は優しく、美佳を導くように響いた。
「見えるかい? あれは、君が“後悔した瞬間”だ。」
純が指差した先、映像のように浮かぶのは、七海彩音とすれ違った日の教室。
無言で背を向けた美佳の表情と、寂しげに肩を落とした彩音。
「私は……」
「君は選ばなかった。ただ、それだけさ。何かを選ばなかったことが、誰かの記憶には“拒絶”として残る。それが、記憶の交差点。」
「でも、どうしてこんなものを見せるの……?」
「LAPISは、君の“再構築の意思”を確かめようとしているんだ。自分自身と向き合えるか、記憶に溺れるか。それが、この空間の意味。」
美佳は黙って足元の写真を拾った。そこに写っていたのは、まだ何も知らなかった頃の自分。
スマホを手にして、アンケートに答える瞬間の、自信なさげな横顔。
「──わたしは」
その唇からこぼれた言葉に、自分自身が驚いた。
「私は、あのとき逃げてた。何も考えずに、選ばされるまま、答えてただけだった。でも今は、違う。ちゃんと、自分で決めたい。」
純の幻影が、微かに微笑む。
「なら進める。この層を超えて、次のステージへ。“LAPISの中枢”が待っている。」
空間の中心に、ひとつの扉が現れる。そこから微かな青い光が漏れていた。
「ありがとう、純くん。たとえ君が記憶の幻だとしても……ここまで来られたのは、あなたのおかげ。」
美佳は静かにその扉へと歩き出す。
記憶と向き合い、自分で選んだ道を、今度こそ踏み出すために。
──彼女の目は、もう迷っていなかった。
目を開けた瞬間、美佳は自分がどこにいるのか分からなくなった。
足元に広がるのは、どこまでも白い床。その上に散らばる無数の断片─│写真、日記、教室、駅のホーム、アンケートの画面。
「ここは……?」
声に出すと、自分の声がやけに遠く響いた。重力も温度もない空間。ただ、記憶だけが散らばっていた。
「ようこそ、“L-001記憶層”へ。」
不意に背後から声がした。振り向くと、そこに立っていたのは──朝倉純だった。
「純……くん?」
美佳は言葉を詰まらせる。
藍都学苑時代、誰よりも穏やかで、優しい眼差しを向けてくれた少年。その姿は、あの頃のままだった。
「君の記憶が作り出した、ぼくの像さ。本物のぼくじゃない。」
「じゃあ……これは全部、私の記憶?」
「そう。LAPISが接続を試みるとき、最初に通るのが“意識の整合”だ。君の中にある未解決の断片を整理し、今の“君”を再定義する。」
純の声は優しく、美佳を導くように響いた。
「見えるかい? あれは、君が“後悔した瞬間”だ。」
純が指差した先、映像のように浮かぶのは、七海彩音とすれ違った日の教室。
無言で背を向けた美佳の表情と、寂しげに肩を落とした彩音。
「私は……」
「君は選ばなかった。ただ、それだけさ。何かを選ばなかったことが、誰かの記憶には“拒絶”として残る。それが、記憶の交差点。」
「でも、どうしてこんなものを見せるの……?」
「LAPISは、君の“再構築の意思”を確かめようとしているんだ。自分自身と向き合えるか、記憶に溺れるか。それが、この空間の意味。」
美佳は黙って足元の写真を拾った。そこに写っていたのは、まだ何も知らなかった頃の自分。
スマホを手にして、アンケートに答える瞬間の、自信なさげな横顔。
「──わたしは」
その唇からこぼれた言葉に、自分自身が驚いた。
「私は、あのとき逃げてた。何も考えずに、選ばされるまま、答えてただけだった。でも今は、違う。ちゃんと、自分で決めたい。」
純の幻影が、微かに微笑む。
「なら進める。この層を超えて、次のステージへ。“LAPISの中枢”が待っている。」
空間の中心に、ひとつの扉が現れる。そこから微かな青い光が漏れていた。
「ありがとう、純くん。たとえ君が記憶の幻だとしても……ここまで来られたのは、あなたのおかげ。」
美佳は静かにその扉へと歩き出す。
記憶と向き合い、自分で選んだ道を、今度こそ踏み出すために。
──彼女の目は、もう迷っていなかった。



