LAPISの深層──通称「コアフレーム」。その中枢に、美佳は誘導されるように足を踏み入れた。赤いアクセスカードを起動させると、壁一面に巨大なスクリーンが浮かび、無数の映像とデータログが飛び交う。

「これが……“選択”の記録?」

画面には、見覚えのある顔が並んでいた。東郷翔、七海彩音、宮下ユリ──そして、かつてのクラスメイトたち。彼らの行動履歴、発言、感情の揺れすら数値化され、タイムスタンプ付きで記録されている。

「これ……盗聴とか監視とか、そんなレベルじゃない……まるで、魂のコピー……」

「そうだよ。」

突然、背後から声がした。振り返ると、そこに立っていたのは有栖川玲だった。

「玲……? どうしてここに?」

「私も呼ばれたの。アンケートで。」

玲の声には、怒りでも困惑でもなく、諦めのような静けさがあった。

「“最も統率力があり、なおかつ感情抑制ができる人材”……そういう評価を受けたのが私だったらしい。LAPISは人の判断を点数化して、最適な“役割”を割り振っていくの。」

「役割……?」

玲は頷くと、壁際のコンソールを操作した。ひとつの映像が大きく表示される。そこには、美佳自身が映っていた。例のアンケートに答える姿──無防備に、そして無意識に。

「アンケートはただの入り口。そこから人の価値観を読み取り、データバンクに“精神構造モデル”を構築する。私たちは全員、もう一人の“自分”をここに持っているのよ。」

美佳は言葉を失った。

「じゃあ、私が今ここにいる意味って……」

「選ばれたから。君の“選択パターン”が、LAPISの学習プログラムに最も影響を与えた。君の意志は、もうただの意志じゃない。“指針”なの。」

玲の視線は冷静だったが、どこかで揺れていた。

「でもね、美佳。私はまだ信じてる。人間の選択が、本当に数値だけで測れるなんて、信じたくない。」

「玲……」

「だから、もし君が“変える”側になれるなら──私は、君の隣に立つ。」

その瞬間、スクリーンの一部が警告色に染まった。
《侵入:未登録アクセス》《オブザーバー001 接近中》

玲の顔色が変わる。

「来る……“監視者”が。」

壁の先、薄暗い通路に影が現れた。機械とも人間ともつかない異形のシルエットが、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。

「ここで立ち止まってたら、見失う。美佳、急いで“データバンク”の中枢へ。」

「わかった……!」

美佳はカードを強く握りしめた。選ばれた意志として──
亡霊たちの記憶を超え、真実に迫るために。