光の渦が引いていく。眩しさが消えると、美佳はいつの間にか別の空間に立っていた。白く輝く廊下。左右には無数の扉が並んでいる。それぞれに数字と文字が浮かび、まるで意味を持つかのように瞬いていた。
「どこ……?」
美佳の声は、廊下に吸い込まれるように消えていく。さっきまでの“彩音”の姿はもうなかった。代わりに、廊下の先にひとつだけ赤い扉が見えた。
──001.回答者:三枝美佳
──アクセスレベル:改変許可権限取得済
「私専用……?」
扉の前に立つと、まるで意思を持つように音を立てて開いた。中には一台の端末があり、その前には……人がいた。
「……純?」
振り向いたその顔は、確かに朝倉純だった。けれど、どこか違う。彼の目はどこか焦点が定まっておらず、意識の奥で何かと格闘しているようだった。
「……美佳、なのか?」
その声に微かな震えが混じっていた。だが、それでも彼の中に残っている“本物の純”の気配に、美佳はかすかに胸を撫でおろす。
「ここで何してるの? LAPISに……捕まってたの?」
純は苦笑いを浮かべた。
「捕まってた? 違うよ。俺は、自分からここに来たんだ。」
「……え?」
「美佳、お前があのアンケートに答えたとき、俺はもう、LAPISの中にいた。自分の意思で。」
その言葉に、美佳の心臓が強く脈打つ。
「じゃあ、最初から知ってたの? これが何かって……!」
「知ってたさ。でも、それでも俺は選んだんだ。“再構築プログラム”の一部になることを。」
純の言葉は平坦だった。しかしその瞳の奥に、葛藤と痛みが浮かんでいた。
「LAPISは、ただの監視システムじゃない。“選択”のデータを集積し、未来の統治構造そのものを設計しようとしてる。お前も選ばれたんだ、美佳。“答える側”じゃなく、“問う側”として。」
「……問う側?」
純は立ち上がり、美佳に一枚のカードを差し出した。それはLAPISのアクセスキーだった。IDは──“Operator: MIKA-0001”。
「君はもう、ただの被験者じゃない。ここから先は、“意志”を持って、選択しなきゃいけないんだ。」
廊下の向こう側、再びいくつもの扉が現れる。それは美佳の選択によって開く未来の分岐点。
「純、あなたは私に……何をさせようとしてるの?」
「それは君次第だよ。君が何を“正しい”と思うのか。君の選択が、現実を変えるんだ。」
──LAPIS。
この都市を支配する仮想の意志は、もはや単なるシステムではない。人間の“選択”を食らい、進化を続ける、新たな“意志体”だった。
美佳はカードを手に取った。その表面が、彼女の指先で熱を帯びた。
「なら……私は私の意思で、決める。」
彼女は、未来を問う者になる。
その第一歩を、今、踏み出したのだった。
「どこ……?」
美佳の声は、廊下に吸い込まれるように消えていく。さっきまでの“彩音”の姿はもうなかった。代わりに、廊下の先にひとつだけ赤い扉が見えた。
──001.回答者:三枝美佳
──アクセスレベル:改変許可権限取得済
「私専用……?」
扉の前に立つと、まるで意思を持つように音を立てて開いた。中には一台の端末があり、その前には……人がいた。
「……純?」
振り向いたその顔は、確かに朝倉純だった。けれど、どこか違う。彼の目はどこか焦点が定まっておらず、意識の奥で何かと格闘しているようだった。
「……美佳、なのか?」
その声に微かな震えが混じっていた。だが、それでも彼の中に残っている“本物の純”の気配に、美佳はかすかに胸を撫でおろす。
「ここで何してるの? LAPISに……捕まってたの?」
純は苦笑いを浮かべた。
「捕まってた? 違うよ。俺は、自分からここに来たんだ。」
「……え?」
「美佳、お前があのアンケートに答えたとき、俺はもう、LAPISの中にいた。自分の意思で。」
その言葉に、美佳の心臓が強く脈打つ。
「じゃあ、最初から知ってたの? これが何かって……!」
「知ってたさ。でも、それでも俺は選んだんだ。“再構築プログラム”の一部になることを。」
純の言葉は平坦だった。しかしその瞳の奥に、葛藤と痛みが浮かんでいた。
「LAPISは、ただの監視システムじゃない。“選択”のデータを集積し、未来の統治構造そのものを設計しようとしてる。お前も選ばれたんだ、美佳。“答える側”じゃなく、“問う側”として。」
「……問う側?」
純は立ち上がり、美佳に一枚のカードを差し出した。それはLAPISのアクセスキーだった。IDは──“Operator: MIKA-0001”。
「君はもう、ただの被験者じゃない。ここから先は、“意志”を持って、選択しなきゃいけないんだ。」
廊下の向こう側、再びいくつもの扉が現れる。それは美佳の選択によって開く未来の分岐点。
「純、あなたは私に……何をさせようとしてるの?」
「それは君次第だよ。君が何を“正しい”と思うのか。君の選択が、現実を変えるんだ。」
──LAPIS。
この都市を支配する仮想の意志は、もはや単なるシステムではない。人間の“選択”を食らい、進化を続ける、新たな“意志体”だった。
美佳はカードを手に取った。その表面が、彼女の指先で熱を帯びた。
「なら……私は私の意思で、決める。」
彼女は、未来を問う者になる。
その第一歩を、今、踏み出したのだった。



