黒い円卓の中心から、青白い光が溢れ出す。
 LAPISの中核にある“再構築プログラム”が、ついに起動した。

 「これが……始まるのね」

 ミオの声は、どこか緊張を含んでいた。
 プログラムはゆっくりと、しかし確実に、美佳の選択を受け入れ、システムの内部を書き換えていく。

 「この再構築で……何が変わるの?」

 美佳は、円卓の中央に立ちながら尋ねた。

 「この世界の“基準”よ。アンケートに答えた者が、自らの意志で選択し、行動した結果、それが世界にとってどう影響するのか。それを本来の形に戻す」

 「……本来の形?」

 ミオはうなずいた。

 「今のLAPISは、利用者の無意識や衝動的な答えを拡大解釈して、“望んだ結果”を先に実現する装置になってる。でも、本来はそうじゃなかった。選択とは、自分で“責任を持って変えていく”ものだったはず」

 「だから、誰かを救いたいっていう私の気持ちが、再構築の鍵になったんだね」

 「そう。あなたの意志が核になって、LAPISは変わろうとしている」

 だが──その瞬間だった。
 部屋の空気が、凍りついたように変わった。

 警告音が鳴り響く。

 《外部からのアクセス。再構築プログラムに対し、妨害コードを検出》

 「なに!?」

 ミオが端末を操作するが、画面は警告で埋め尽くされていた。
 再構築は一時中断された。
 その中央に、ひとつの名前が浮かび上がる。

 《TOUGO_SHO:ログイン認証完了》

 美佳の身体が、びくりと震える。

 「……東郷翔?」

 まさか。
 あの、無口で冷静だった同級生が、こんな形で自分の前に現れるなんて。

 「どういうこと、ミオ? 翔くんが……何を?」

 ミオは眉をひそめながら言った。

 「このアクセス、明らかにLAPISの構造を熟知している。再構築そのものを無効化しようとしているわ」

 次の瞬間、空間の中心に光の柱が立ち、そこから一人の男が現れた。
 銀色のインターフェーススーツに身を包んだ東郷翔が、無言で美佳を見つめている。

 「翔くん……!」

 懐かしいはずのその姿。けれど、その目は、美佳が知っていた頃の彼とはまったく違っていた。

 冷たく、そして決して揺らがない光。
 それはまるで、システムそのものの意思のようだった。

 「再構築は、させない。……この世界は、選ばれた者だけのものだ」