ミオの光が完全に消えたあと、廃工場の中に重たい沈黙が落ちた。
 けれど、その沈黙は次の瞬間、低い振動音に破られる。

 床が微かに震え、壁面を覆っていたひび割れたモニターが一斉に点滅した。
 まるで都市全体が、長い眠りから目覚めるように。

「な、何だ……?」
 純が眉をひそめる。

 モニターには無数の光点が浮かび上がり、やがてそれが藍都学園都市の地図を描き出した。建物の輪郭、道路の走行ライン、川の流れまで、すべてが鮮明に輝いていく。

 その光は次第に呼吸するように明滅し、あちこちに淡い波紋を広げていった。

「……生きてるみたい」
 ユリが呟いた。

 美佳は胸に抱く鍵を見つめ、無意識に握りしめた。
 まるで、その脈動と都市の光が呼応しているかのように感じられたからだ。

「これは……LAPISが、わたしたちの選択を受け入れたってこと?」
 玲の問いに、東郷はゆっくりと頷いた。

「完全に制御を取り戻したわけじゃない。だが……破壊の兆候は消えた。少なくとも、この都市は“崩壊する未来”からは救われたようだな」

 その言葉に、一同はようやく安堵の息をついた。
 だが美佳の胸には、不思議な緊張がまだ残っていた。

 ──これで本当に終わりなのだろうか。
 ミオは「また問いが立ちはだかる」と言っていた。
 それは、今すぐにやって来るのか、それとも遠い未来に訪れるのか。

 そんな思考を断ち切るように、工場の天井から大きな軋み音が響いた。
 振動が増し、粉塵が舞う。

「この建物……長くはもたない!」
 純の声に皆が顔を上げる。

 廃工場は、まるで役目を終えたかのように自壊を始めていた。
 壁の隙間から光が差し込み、外の夜空が覗いている。

「急いで脱出しよう!」
 美佳は叫び、仲間たちと共に走り出した。

 背後で鉄骨が崩れ落ちる轟音を聞きながら、美佳は振り返らない。
 ただひとつ確かなのは──ここでの選択が、確かに都市の未来を変えたということだった。