〇
まず、アルチェと家族との再会の驚きと喜びと涙があった。俺については驚きはしたものの、おとなしい態度や服装と、愛娘からの手短な説明でひとまずスルーされていた。
やがて一通りの再会劇のあとで、ようやく俺に皆の関心が向く。母親は目を丸くして、おそるおそるにも興味深げだった。
「俺はモリオ。手を貸して欲しい、差し支えなければ、だけどな」
俺がただのゴブリンでないことは、五分くらい話をしただけで納得されたようだ。喋っている言葉遣いや内容からしても、普通のゴブリンではありえないのだし、この世界では「異世界からの転生者」というのがしばしばあるのだからなおさらだ。
「ふむ。とにかく、娘を助けてくれたことにはお礼を言うよ。何か力になれることがあれば、手伝いくらいはさせて貰おう」
アルチェの父親は物わかりが良かった。
むろん、言葉には出さずとも(得体の知れない俺に)警戒しているのは大前提ではあるが、それでも盗賊に誘拐された娘を助けて無事に連れてきたことで、多少の感謝や信頼は得られたらしい。
そこで、アルチェは言った。
「わたし、こいつと闘技場に出ようと思うの。モリオが選手や出場者で、わたしがマネージャーやトレーナー」
「ほう? モンスター同士で戦わせるとか、人間と対戦するとかかい?」
「出場するだけで出演料が出るし、勝ったらお客さんの賭けた分から賞金ボーナス出るし」
「なるほど、考えたな」
父親はチラリとこちらを見た。
「考えたのは、君だな」
「そういうことだ。盗賊狩りも悪くないが、限界がある。それに、「野良」のままだと、モンスター扱いで自分が人間から狩られるリスクもある」
「すると、盗賊を襲っている謎のゴブリンというのは、君のことだったのか? 普通の村人は襲わないだとか、「行動が変なのがいる」と聞いたことがある」
腑に落ちたらしい。
そこで、俺はもう一つ提案した。
「だったら、話が早い。できれば、賞金稼ぎもやりたいと思っている。ここの保安官事務所や冒険ギルドに話をつけるのも、手伝ってくれないか?」
その日のうちに、保安官事務所に行って事情を説明するのに付き合ってくれた。小さいとはいえ商家の旦那が話がわかる。商売で人を見る目もあるようで、俺が必ずしも危険でないと、察したものらしかった。
〇
「なあ? 対戦者のリクエストなんだけど」
「うん? お望みがあるの?」
俺とアルチェは小テーブルを挟んで、サンドイッチと紅茶で作戦会議。彼女の実家の商店の裏庭で、すぐ近くで母親と兄弟が聞き耳している。
「どうせだったら、女冒険者と対戦していい? 勝ったらそのまんま公開レイプ」
アルチェの両手が無言で伸びて、俺の襟元をとっ捕まえて吊し上げた。立ち上がれば、ゴブリンの俺より彼女の方が背が高いし、女としてはパワーもあるようだ(怒りで馬鹿力なのか?)。
「あんたねえ! それ、最低っ! そんなの、村の娘とか私とかを襲うのと、同じでしょ?」
「いいや、違うね!」
俺は吊されて両足をブラブラさせながら、「チッチ」と余裕で人差し指を振る。
「覚悟して、合意の上で勝負するのと、やる気がなくて逃げ惑う女に無理強いするのでは。だいたい、こっちだって負けたらボコボコにされたり、試合のシステムによっては殺されるんだから。「殺さずレイプで許してやる」とか、優しいんじゃねえの?」
「発想が最低だわ!」
アルチェは気色ばんで睨んでくる。だが、ややあって、彼女は毒を含んだ微笑を浮かべる。
「わかったわ。探してあげる。友達にツテがあるのよ。ちょっと痛い目にあったら良いんだわ!」
まず、アルチェと家族との再会の驚きと喜びと涙があった。俺については驚きはしたものの、おとなしい態度や服装と、愛娘からの手短な説明でひとまずスルーされていた。
やがて一通りの再会劇のあとで、ようやく俺に皆の関心が向く。母親は目を丸くして、おそるおそるにも興味深げだった。
「俺はモリオ。手を貸して欲しい、差し支えなければ、だけどな」
俺がただのゴブリンでないことは、五分くらい話をしただけで納得されたようだ。喋っている言葉遣いや内容からしても、普通のゴブリンではありえないのだし、この世界では「異世界からの転生者」というのがしばしばあるのだからなおさらだ。
「ふむ。とにかく、娘を助けてくれたことにはお礼を言うよ。何か力になれることがあれば、手伝いくらいはさせて貰おう」
アルチェの父親は物わかりが良かった。
むろん、言葉には出さずとも(得体の知れない俺に)警戒しているのは大前提ではあるが、それでも盗賊に誘拐された娘を助けて無事に連れてきたことで、多少の感謝や信頼は得られたらしい。
そこで、アルチェは言った。
「わたし、こいつと闘技場に出ようと思うの。モリオが選手や出場者で、わたしがマネージャーやトレーナー」
「ほう? モンスター同士で戦わせるとか、人間と対戦するとかかい?」
「出場するだけで出演料が出るし、勝ったらお客さんの賭けた分から賞金ボーナス出るし」
「なるほど、考えたな」
父親はチラリとこちらを見た。
「考えたのは、君だな」
「そういうことだ。盗賊狩りも悪くないが、限界がある。それに、「野良」のままだと、モンスター扱いで自分が人間から狩られるリスクもある」
「すると、盗賊を襲っている謎のゴブリンというのは、君のことだったのか? 普通の村人は襲わないだとか、「行動が変なのがいる」と聞いたことがある」
腑に落ちたらしい。
そこで、俺はもう一つ提案した。
「だったら、話が早い。できれば、賞金稼ぎもやりたいと思っている。ここの保安官事務所や冒険ギルドに話をつけるのも、手伝ってくれないか?」
その日のうちに、保安官事務所に行って事情を説明するのに付き合ってくれた。小さいとはいえ商家の旦那が話がわかる。商売で人を見る目もあるようで、俺が必ずしも危険でないと、察したものらしかった。
〇
「なあ? 対戦者のリクエストなんだけど」
「うん? お望みがあるの?」
俺とアルチェは小テーブルを挟んで、サンドイッチと紅茶で作戦会議。彼女の実家の商店の裏庭で、すぐ近くで母親と兄弟が聞き耳している。
「どうせだったら、女冒険者と対戦していい? 勝ったらそのまんま公開レイプ」
アルチェの両手が無言で伸びて、俺の襟元をとっ捕まえて吊し上げた。立ち上がれば、ゴブリンの俺より彼女の方が背が高いし、女としてはパワーもあるようだ(怒りで馬鹿力なのか?)。
「あんたねえ! それ、最低っ! そんなの、村の娘とか私とかを襲うのと、同じでしょ?」
「いいや、違うね!」
俺は吊されて両足をブラブラさせながら、「チッチ」と余裕で人差し指を振る。
「覚悟して、合意の上で勝負するのと、やる気がなくて逃げ惑う女に無理強いするのでは。だいたい、こっちだって負けたらボコボコにされたり、試合のシステムによっては殺されるんだから。「殺さずレイプで許してやる」とか、優しいんじゃねえの?」
「発想が最低だわ!」
アルチェは気色ばんで睨んでくる。だが、ややあって、彼女は毒を含んだ微笑を浮かべる。
「わかったわ。探してあげる。友達にツテがあるのよ。ちょっと痛い目にあったら良いんだわ!」

